<作品メモ>THE ART OF ORGANIZED NOIZE(アート・オブ・オーガナイズド・ノイズ)
以下、Netflixで鑑賞したドキュメンタリー映画「THE ART OF ORGANIZED NOIZE(アート・オブ・オーガナイズド・ノイズ)」の感想文です。
<ヒップホップの創世記>というと、当たり前のように70年代後半のニューヨーク、サウス・ブロンクスがフォーカスされ、ついで80年代後半の西海岸へとスポットライトが当たる。そして、90年代の黄金期サウンドとしてDJプレミアやピート・ロックといったイーストコーストを中心に活動した名プロデューサーの名前がクローズアップされ、そのあとに続くのはパフ・ダディが築いたバッドボーイ帝国や、Dr.ドレーのアフターマス王国あたりと言ったところでしょうか。私も90年代後半ごろからUSのヒップホップ・サウンドを追い始めて、最初は先輩に「DJプレミアからディグれよ」みたいなことを言われたのだけど、正直、当時は一つのループで作り出されるトラックがとても単調に聴こえてしまって、はっきりとフックのコーラスがフィーチャーされているGファンク系のサウンドや、バウンシーな南部のサウンドの方がとっつきやすかったの。ナズの『Illmatic』を聴いても「あれ?今の曲、フックはどこだったの…?まさか、あのサンプリングの部分がフック…!?」みたいな。
というわけで、80年代後期〜90年代の米ヒップホップ史においてはニューヨークとロサンゼルス以外の地域はほぼシカトされることが多い。たまにマイアミの2ライヴ・クルーやヒューストンのスカーフェイス、UGK、そしてアトランタのアウトキャストらの名が挙がるくらいでしょうか。話が前後してアレだけど、私は中学二年生くらいの時期にグッディー・モブ「Cell Therapy」を聴いて、その泥臭いトラックとラップの虜になってしまった。
その頃、モニカやアッシャー、TLCといった大好きなR&Bアーティストがこぞってアトランタ出身だということに気がつき、グッディー・モブもまたアトランタ出身だということに気がついた私はめちゃくちゃ興奮したのを覚えています。極め付けは1999年に安室奈美恵さんが発表したシングル「Something ‘Bout The Kiss」で、その曲のプロモーションには必ず「ダラス・オースティンのプロデュースによる」という文句がついて回っていた。
で、当時たまたまチェックしていたTLCのアルバム・クレジットにもダラスの名前を見つけて一人でニヤニヤしていた気がします(ちなみに中学生の私はアルバム・クレジットの欄を歌詞だと勘違いして熱心に読み込んでいた。そのおかげで、早いうちからプロデューサーやサンプリングのネタ元などを知ることができたと思う)。てゆうか、この曲ってデモテープで仮歌を入れていたのがモニカだって話をTVかどこかで聴いた気がします。
そんなこんなで、私が15年以上ファンを続けていたアトランタ・シーンのサウンドを作り出す名プロデューサー・チーム、オーガナイズド・ノイズ(ON)の裏側を余すところなく伝えてくれる本ドキュメンタリー作品はとにかくツボな部分だらけで、2016年10月のNetflix公開からかれこれ3度は観た。知らない貴兄のために記しておくと、ONはリコ・ウェイド、レイ・マーレイ、そしてスリーピー・ブラウン(めっちゃ伊達男♡)からなるプロデューサー・チーム。詳しくは『The Art Of Organized Noize』本編をご覧頂きたいのだけど、アウトキャストのプロデュースや、TLC「Waterfalls」、アン・ヴォーグ「Don’t Let Go(Love)”などを手がけたチームです。
元祖ダーティー・サウス!!
本編では彼らの成功、そしてアウトキャストやグッディー・モブ、ダンジョン・ファミリーらチームとの別離を生々しく伝えていて、今になってやーっと「ああ、あの時はそんな心境だったんだ」と知ることも多かった。あの頃は、いちいちSNSでその時の感情をスプレッドしていた時代じゃないからね。ペブルスがLA・リードへとONのことを紹介して見事La Faceとの契約に至った経緯や、そのあと、LaFaceのクリスマス・コンピ用にアウトキャスト「Player’s Ball」を作ったエピソード、そのMVの中で、「アトランタらしさ」を出すためにわざわざアトランタ・ブレイヴスのユニフォーム・シャツに着替えたこと、そしてヒットのあとに薬物中毒に陥ってしまったことなど、本人たちはもちろん、周りにいた当事者たちの意見も交えながら見事にドキュメンタリー映画として構築していて素晴らしかった。ちなみにメガホンを取っているのはQDIIIこと、クインシー・ジョーンズ・三世。あのクインシー・ジョーンズの息子さんだそう!なんでこのフィルムを撮ることになったんだろう。初出はSXSWだそうです。QDIIIさん、どうもありがとう。
ほんでもって、本作にはグッディー・モブのメンバーであるビッグ・ギップの元奥さんであり、一時期あのルーシー・パールのヴォーカルを務め、2015年のディアンジェロの来日時にはバック・ヴォーカルとして参加していたジョイ・ギリアムや、アウトキャストのデビュー時にバックアップしていたパフ・ダディのほか、リコ・ウェイドの従兄弟でもあるフューチャー、そして現代のアトランタ・サウンドを牽引するスター・プロデューサー、メトロ・ブーミンらの発言映像も盛り込まれています。メトロ・ブーミンなんて日本のメディアで紹介されること、非常に少ないっつうかほぼゼロだと思うから、これはとっても貴重な映像だと思う。
どこかの原稿でも書いたけど、今や、マイリー・サイラス、ジャスティン・ビーバーらポップ・シンガーまでもがこぞってサウスのヒップホップ・ヴァイブスを取り入れているし、プロデューサーのマイク・ウィル・メイド・イットはアトランタ産のトラップ・サウンドを明らかにポップ・ミュージックへと昇華したよね。チャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』が前作『Acid Rap』よりも高い評価と人気を得たのも、ゴスペル要素やSOXの面々による素晴らしいサウンド構築に加え、フューチャーや2チェインズ、ヤング・サグやリル・ヨッティーといった、旬&ある意味ポップなアトランタのMCたちを多く起用したからだと思う(言い過ぎ?)。
そんなこんなで、アトランタのヒップホップ・シーンの礎を築いたONの存在がなければ、2016年のビヨンセもカニエ・ウエストも、リアーナも、チャンス・ザ・ラッパーも存在しえなかったのではないかしら(言い過ぎ?すみません)。2016年は日本でもやたらと↑のようなアーティストにもスポットライトが当たった年だったと思うけど、去年、初めてチャンスやビヨンセの作品に触れたという方にも、このドキュメンタリー作品を観ていただければな〜と思います。今や、こんなにもパワーを持ったアトランタ産のサウンドがどのように創られていったのか(そしてそこにはどんな犠牲と葛藤があったのか)知ることが出来ますので。
ちなみにCOMPLEX誌がONのベストワークス25をまとめておりますのでご参考までにどうぞ!
The 25 Greatest Organized Noize Songs Of All Time | Complex
というわけで、2017年もホットなアトランタ・サウンドとの出会いを楽しみにすべくキーボードを閉じたく思います。
またね〜。
#BlackRiverMobb 2016 BEST75
さて、そろそろ2016年も終わりということで、私とスタイリストの黒川慎太郎の二人で組んでいる詳細不明なユニット、#BlackRiverMobb で2016年のベスト・ソング計75曲を選んでみました!#BlackRiverMobb としては、今年、イベント「#BANGBANG」を二回も開催することができ本当に充実した一年となりました。ご協力ならびにご来場くださった皆様には、心より御礼申し上げたく思います。
選出した75曲はApple Musicのプレイリストにまとめています。Aple Music内に見つからなかったものはYoutube のリンクを貼っておりますので、併せてご覧ください。基本的にハードでアホっぽい曲が多く、黒川がDJでよく掛けた曲や、私が「INSIDE OUT」で紹介した曲、我が家でよく掛っていた曲を集めました(でもって、正確には76曲あります…)。曲順に意味はないので、シャッフルで聴くのが面白いかもです。
Gang Signs – Sad Boy
Kickin Flavor - Yung Bleu
Formation – Beyonce
あと、本ブログの最下部に、一曲ずつ雑な一言コメントを書いておりますのでおヒマな方はそちらも…。
他、私が個人的に選んだヒップホップ・アルバム10選は、Real Soundさんの記事にして頂いております。
そして、block.fm「INSIDE OUT」内で発表した「INSIDE OUT AWARDS 2016」は、書き起し名人のみやーんさんがご自身のブログにアップして下さっています。
じゃあ、またね〜。
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1. Father Stretch My Hands, Pt. 1 - Kanye West
「シカゴの思い出。出だしのヤング・メトロ・シャウトのところですでに優勝」
2. Work (feat. Drake) - Rhihanna
「実らぬ恋よ…」
3. One Dance (feat. Wizkid & Kyla) - Drake
「SNLでのパフォーマンスも最高でした!」
4. No Problem (feat. Lil Wayne & 2 Chainz) - Chance The Rapper
「おチャン、快進撃!」
5. Gotta Lotta (feat. Lil Wayne) - 2Chainz
「2016年にスキャットマン・ジョンを蘇らせるとは…。ピーパッポ」
6. MFN Right - 2Chainz
「マザファキンライトッッッ!!!」
7. Low Life (feat. The Weeknd) - Future
「ダウナーなウィーケンドの方が好き。ポップスターなウィーケンドはワック」
8. Wicked – Future
「アトランタの思い出」
9. Young Fly N***a (YFN) - YFN Lucci
「アトランタの思い出 pt.II」
10. Push It - O.T. Genasis
「六本木の思い出」
11. Get Paid - Young Dolph
「メンフィスの若殿っぷりを見せつけた!」
12. 2 Phones - Kevin Gates
「アルバムも最高でした!」
13. I Got the Keys (feat. JAY Z & Future) - DJ Khaled
「コミュ力の高さ。MV良し」
14. All the Way Up (feat. French Montana & Infared) [Remix] - Fat Joe, Remy Ma and Jay Z
「鮮やかな復活劇。ジェイの、奥さんベタ褒めヴァースも良し」
15. X (feat. Future) - 21 Savage & Metro Boomin
「ボソボソラップ最高峰」
16. Said n Done (feat. A$AP Rocky) - French Montana
「ネタ使いもイイね!オーマイガ!」
17. Skrt - Kodak Black
「スカスカ〜ッ」
18. Money Longer - Lil Uzi Vert
「名フック!」
19. Strive (feat. Missy Elliott) - A$AP Ferg
「90年代のハウスっぽい、踊れるファーグ」
20. THat Part (Black Hippy Remix) - ScHoolboy Q
「オケオケオケオケオケ、オケッッッ!!!」
21. Minnesota (feat. Quavo, Skippa da Flippa & Young Thug) - Lil Yachty
「DJミネソタくん from KANDYTOWN を思い出す」
22. Say Sum - MIGOS
「メロウなミゴスも白眉」
23. Pick up the Phone (feat. Quavo) - Young Thug & Travis Scott
「相性が悪いわけがない!」
24. With Them - Young Thug
「フロウ七変化」
25. Problem - Young Thug
「フロウ七変化 pt.II」
26. Black Beatles (feat. Gucci Mane) - Rae Sremmurd
「マネキン…」
27. Guwop Home (feat. Young Thug) - Gucci Mane
「おかえりグワップ!祝出所!」
28. St. Brick Intro - Gucci Mane
「MV最高。メリクリ〜!プレゼントはAK銃です」
29. Icy Lil Bitch - Gucci Mane
「原点回帰」
30. Bling Blaww Burr (feat. Young Dolph) - Gucci Mane
「シンプル・イズ・ザ・ベスト」
31. Money Machine (feat. Rick Ross) - Gucci Mane
「今期最も景気良さげな一曲」
32. Ooouuu - Young M.a.
「ステファニー、フェラファニー」
33. Froze (feat. Lil Uzi Vert & Nicki Minaj) - Meek Mill
「彼氏に捧げるニキの本気ヴァースがいい」
34. Buddha (feat. Boyz II Men & Adrian Truth) - Tech N9ne
「B2Mの無駄遣い」
35. Campaign (feat. Future) - Ty Dolla $ign
「今年も大活躍のタイダラ!」
36. $ - Ty Dolla $ign
「来年も期待大のタイダラ!」
37. War Ready - Vince Staples
38. My Carz - Snoop Dogg
「スヌープおいたん、まだまだ現役です!」
39. Double Tap (feat. E-40 & Jazze Pha) - Snoop Dogg
「ジャジー・フェイ、歌いまくりでイイ!」
40. Talk Show - TWENTY88
「恋愛相談トークショウを模したデュエットというアイデアも秀逸」
41. Dirty Water - Marc E. Bassy
「マイク・ポズナーに通じるものがある新人シンガー」
42. Tiimmy Turner – Desiigner
「一年間、大活躍お疲れさまでした!」
43. Redbone - Childish Gambino
「ファット・ジョーと同じあのネタ」
44. Losing Your Mind - Raury & Jaden Smith
「二人のキャッキャ感が出ていた良かった。ドラマも」
45. Luv – Tory Lanes
「定番ネタをこんな風にカヴァーしちゃうなんて」
46. Surfin' (feat. Pharrell Williams) - Kid Cudi
「カディさん、お帰りなさい!」
47. Drug Dealers Anonymous (feat. JAY Z) - Pusha T
「マツダとカープが登場するH-TOWNアンセム。神ってる〜」
48. Not Nice - PARTYNEXTDOOR
「“One Dance”やないかーい!」
49. Panda - Disiigner
「ヒップホップ史のワンヒットワンダー伝説を塗り替えた」
50. Money (feat. Pell) - Leaf
「NYの下町マグネット・ビッチとニューオーリンズのMC、ペル」
51. All Eyez (feat. Jeremih) - The Game
「しっとりゲーム」
52. Mad (feat. Lil Wayne) - Solange
「姉妹力」
53. Devastated - Joey Bada$$
「エモい」
54. Han Solo on 4's - Paul Wall
「ヒューストン、まだまだ行くで!」
55. Get Rich - Slim Thug
「ヒューストン、まだまだ行くで!」
56. MY PYT - Wale
「爽やかワーレイ」
57. Ult - Denzel Curry
「いつもながらにハードモード!」
58. CRZY – Kehlani
「自殺騒動を経てバッサリベリーショートになったケラーニ嬢。アルバム楽しみ」
59. Consuela (feat. Young Thug & Zack) - Belly
「ラテン調のヴァイブスが堪んない」
60. My Favorite Part (feat. Ariana Grande) - Mac Miller
「真剣に愛を歌うマック坊…イイ!公私混同MVオブ・ジ・イヤー」
61. Remix'n a Bricc (feat. Fetty Wap, Young Thug & Starrah) - Bricc Baby
「アホっぽさが◯」
62. Magic City Monday (feat. Future & 2 Chainz) – Jeezy
「アトランタ万歳〜!Magic City行ってみたい〜!」
63. Mudd (feat. Yung Bleu) - Boosie Badazz
「師弟コンビ、イイですね!」
64. F Cancer (Boosie) [feat. Quavo] 0 Young Thug
「癌を克服したブーシー、本当におめでとうございます」
65. Memoirs of a Gorilla - $uicideBoy$
「うるささ」
66. Thug (feat. YG) - AD & Sorry Jaynari
「うるささ pt.II」
67. Juice (feat. Ty Dolla $ign, The Game, O.T. Genasis, Iamsu! & K CAMP) [Remix] - AD & Sorry Jaynari
「西のヤンキー勢ぞろい!!」
68. Go Flex - Post Malone
「ゆるふわギャング的ヴァイブス」
69. Yamborghini High (feat. Juicy J) - A$AP Mob
「待ってました!」
70. Down In the DM - Yo Gotti
「ヒット御礼。SNS+スケベ心」
71. Playa No More (feat. A Boogie With Da Hoodie & Quavo) - PnB Rock
「元ネタがほぼ同名のアレ」
72. For Free (feat. Drake) - DJ Khaled
「オールドスクールなヴァイブスもあって良い」
73. Mr. Tokyo – MadeinTYO
「来年も来日(つか帰国?)してくれるかな?」
74. Gang Signs – Sad Boy
「ガチギャング」
75. Kickin Flavor - Yung Bleu
「アラバマの新鋭!めちゃ注目株」
76. Formation – Beyonce
「女王🐝🍋👑」
フレンチ・モンタナ『MC4』ライナーノーツ原稿公開
こんばんわ。
11月にリリースされたフレンチ・モンタナの『MC4』、もう聴いた〜?これ、普通にリリースする正規のアルバム作品としてほぼ全て完成していたんだけど、楽曲のサプリングのクリアランス問題で発売がずっと先延ばしになっていたの。そして、そうこうしている間に全曲がネットにリークしてしまい、結局『MC4』はフリーDLのミックステープとして発表されることになってしまったのでした。
しかもしかも、日本のソニーさんも『MC4』の国内盤を出す予定でして、にゃんとと私がライナーノーツ&全曲分の対訳を担当させてもらう話になっていたんですね。しかし、「一式納品した!」と言うタイミングで、アルバム発売中止が決まったのでした…。というわけで、お蔵入りしてしまった原稿をこのブログに掲載したいと思います(レーベルご担当者さまの許可は頂いております)。ちなみにレーベルの方は私が「Ocho Chinco」の解説をしているのをきっかけに、今回のお話を依頼してくださったそう。えげつない下ネタでも何でも、喋っておくものですね。
では、お読みください。
(以下、ライナーノーツ原稿)
今年の7月、ニューヨークの老舗ヒップホップ・ラジオ局、HOT 97が日本で主催するヒップホップ・フェス「SUMMUERJAM TOKYO」に出演するために初来日を果たしたフレンチ・モンタナ。くだんのフェスでは大トリを飾り、ヒット・シングルをこれでもかとパフォーム。2016年のヒップホップ・シーンを牽引するスターMCとしてのカリスマ性を遺憾なく発揮し、数千人のオーディエンスを魅了した。少年時代に故郷のモロッコからブロンクスに移住し、ひたすらヒップホップ・スターを目指してマイク稼業を続けてきたフレンチだが、ストリートでDVDを売りながら2007年にミックステープ『French Revolution Vol. 1』でデビューした当時、ここまでの成功を誰が予想していただろうか。
まず、本作『MC4』に至るまでの彼の動きをレヴューしていこう。ミックステープを中心にラッパーとして活動しながら、2011年にパフ・ダディ率いるBad Boy Recordsと契約し、2013年にはデビュー・アルバム『Excuse My French』をリリース。ジャリル・ビーツやヤング・チョップ、そして中堅ドコロのリコ・ラヴらを製作陣に招き、まさに旬なクラブ・バンガーを詰め込んだ傑作となった。何よりも驚くのが、その豪華なゲスト陣。1991年にルークが放ったヒップホップのクラシック・パーティー・チューン”I Wanna Rock”をサンプリングした”Pop That”はドレイク、リック・ロス、リル・ウェインを、レゲエの定番曲、チャカ・デマス&プライヤーズの”Murder She Wrote”を大胆に引用した”Freaks”ではニッキー・ミナージュを、そしてNFLの同名選手をモジった”Ocho Cinco”のリミックスにはレーベルのドン、パフ・ダディにマシンガン・ケリー、ロス、レッド・カフェらを招き、フレンチのデビューを祝うかのごとく、ヒップホップ・シーンじゅうからホットなMCらが集まった。ファースト・アルバム発表後、2014年にはすでに本作『MC4』のリリースを示唆していたのだが、その製作意欲はアルバムのみにとどまらず、アルバム『MC4』をリリースするまでにクルー名義での『Coke Boys 4』、プロデューサー、ハリー・フラウドとのタッグで発表した『Mac & Cheese 4: The Appetizer』、豪華ゲストが集結した『Casino Life 2』、フェッティ・ワップとのコラボ作となる『Coke Zoo』、そして、マックス・Bとのコラボ・ミクステ『Wave Gods』 と、実に5作ものミックステープを発表しており、ファンを飽きさせることなく驚異の多作っぷりを証明して見せたのだった。
また、ここ数年、フレンチといえばその派手な交友関係もしばしば話題に上るほど、セレブ然とした生活を送っていることでも知られる。2012年に前妻のディーン・カーボウチと別れた後(ちなみにフレンチにはディーンとの間に長男・クルーズがいる)、マイアミのヴェテラン・ラッパーであるトリーナや、モデルのソフィア・ボディとも恋仲を噂され、そしてその後、キム・カーダシアンの実妹であるクロエ・カーダシアンとの交際をスタートさせた(2014年に破局済み)。カーダシアン家といえば、リアリティ番組を通じて世界中に仰天のセレブ生活を発信している有名人一家である。というわけで、クロエとの交際期間中には彼女たちのリアリティ番組にも度々フレンチの姿が放送され、ヒップホップ以外のシーンでもお茶の間にその名を轟かせた。なお、キム・カーダシアンの配偶者はあのカニエ・ウエストであり、クロエとの交際期間において、フレンチはさらにカニエとの絆を強固なものにしたのではないかと邪推する。ただ、こうした幅広い交友関係がそのまま彼のキャリアにも繋がっており、ジェニファー・ロペスとの"I Luh Ya Papi"や、マイリー・サイラスやウィズ・カリーファと共に参加したウィル・アイ・アムの"Feelin' Myself"、クリス・ブラウンの”Loyal”、そしてあのジェイ・Zと共演したDJキャレドのシングル”They Don’t Love You No More”など、フィーチャリング・アーティストとしても引っ張りだこに。なお、つい最近では”Fancy”のヒットでもおなじみ、オーストラリア出身の白人女性ラッパーであるイギー・アゼリアとの交際が噂されたり、ロサンジェルスの超高級住宅地であるカラバサス内にある豪邸を、セレーナ・ゴメスから330万ドルで買い取ったというニュースが報じられたりと【註1】、ゴシップには困らない様子。こうした彼の派手な動きを見るにつけ、所属レーベルのオーナー、パフ・ダディの華麗で豪奢な姿とかぶってしまうのは筆者だけだろうか。
もちろん、こうした華やかな生活だけがフレンチの全てではない。順風満々なキャリアを歩んでいたフレンチに悲劇が起こった。2015年5月17日、フレンチ・モンタナのクルー、Coke Boysの主要メンバーであり、キャリア初期から常にフレンチと共に活動してきたラッパー、チンクス・ドラッグズことチンクスが車中で何者かに撃たれ、享年31歳でその生涯を終えることとなったのだ。常にチームをレプリゼントしてきたチンクス。彼のヒット曲、その名も”Coke Boys”は、フレンチとともにクルー愛を歌い、スマッシュ・ヒットとなった楽曲でもある。チンクスの逝去後間もなく、フレンチはインスタグラムに「自分の兄弟分がこんな風に去ってしまうのは辛い。彼は間違いなくリアルな奴だった。こんなのは間違ってるよ。ストリートは俺らに対して愛なんかない」とポスト。最愛の片腕を亡くした彼の失望感は計り知れない。
そんな人生の紆余曲折を経て発表されたのが、待望のセカンド・アルバム『MC4』だ。ちなみにこのタイトル、彼がインディ時代から発表し続けていた自身のミックステープ『Mac&Cheese』シリーズに由来するもの。フレンチといえば、とにかくキャッチーなヒット・シングルが要であることは周知の通り。本作からはまず、カニエ・ウエストとナズを迎えたM-1”Figure It Out”がリード・シングルとして発表された。本楽曲、もともとは先述したミックステープ『Wave Gods』に収録された楽曲であり、非情な現実世界を憂うブルージーなチューンである。なお、カニエとナズが同一の曲に参加するのは、この『Figure It Out』が初めてとのこと。印象的なサンプリング・ソースは、カナダ・トロント出身のバンド、ウィー・アー・ザ・テイクの” Montreal Love Song”だ。そして、セカンド・シングルとしてリリースされたのはM-8”Lockjaw”。フィーチャリングで参加しているのは、まだ若干19歳の若手ラッパー、コダック・ブラック。このコダック、その若さゆえかヤンチャな行動が多く、2016年9月の現在も、複数の罪状により、まだ刑務所の中で判決待ちの状態【註2】。ただ、有名ヒップホップ雑誌のXXL誌が選ぶ期待のMC10名にも選出されており、業界内からの期待は非常に高い存在でもある。そして、これらシングル以外にも豪華なゲストの名が並ぶ。M-5”Evreytime”はアトランタからジーズィーを召喚し、スリリングなハスラー・ラップを聴かせ、M-6には同じニューヨークのシーンを背負うA$AP・ロッキーが参加。リリック内で繰り返される印象的な「Oh My God, Oh My God」のフレーズは、かのバスタ・ライムスがア・トライブ・コールド・クエストの名曲”Scenerio”内で発したもので、これは二人なりのニューヨーク・アンセムと言えるかも?ロッキーも、これまで以上に軽妙なライミングを楽しんでいるようで、二人の好相性差が伺える。他、M-11ではR&Bシンガーのミゲルを呼び込んでグッとセンシュアルな雰囲気を纏わせたかと思えば、M−13"Have Mercy"ではビーニー・シーゲル、ジェイダキッス、そしてスタイルズ・Pといった1990年代後半からニューヨーク・ヒップホップ・シーンを支え続けてきた先輩らを招き、 重厚感あふれるマイクリレーを実現させている。そして、本アルバムにおける最重要ゲストといえば、M-14. “Chinx & Max / Paid For”にフィーチャーされたチンクスとマックス・Bだろう。前述の通り、若くして銃弾に倒れてしまった盟友・チンクス。そして、マックス・Bはフレンチがまだ無名の頃からとも活動してきたハーレム出身のラッパーだ。もともと、キャムロンやジム・ジョーンズらディプロマッツのメンバーとも共に活動してきたマックス・Bだが、2009年に第一級殺人ならびにその他の余罪を問われ、75年という超長期刑を受けて現在も収監中だ【註3】。ただ、フレンチにとってはラッパーとして活動をスタートした頃から自分を支えてくれた大切な同胞である。本楽曲ではチンクスを失った悲しみとマックス・Bの非情な状況とを重ねあわせて人生の悲哀を語り、曲中には、獄中からの電話を通してレコーディングしたマックス・Bの肉声、そして彼の母親からのメッセージをフィーチャーしている。楽曲の後半ではマックス・Bとチンクスのヴァースを合わせて、もはや実現不可能になってしまった3MCのコラボを実現させることに成功。涙無くしては聴けない一曲に仕上がっている。
そして、多くのヒット曲を連発しているフレンチらしく、本作品に参加しているプロデューサーもホットな面子が揃った。業界からも注目される新星、リル・ウージー・ヴァートの代表曲”Money Longer"でその名を挙げたマーリー・ロウ。ミーゴス”Pipe It Up”を始め、リル・ヨッティーからドレイクまでを手がけるカナダ出身のマーダー・ビーツに、これまでにエミネムやジェイ・Zらのビートを手がけてきたヴェテラン、DJキャリルや、サイプレス・ヒルやモブ・ディープ、ファット・ジョーに50セントら、数々のヒップホップ・クラシックを生み出してきたジ・アルケミスト、そして、これまでにもフレンチと共に多くの代表曲を作り上げてきたハリー・フロウドやアール&Eも参加し、これまでのフレンチの世界観を踏襲しつつ、新たなサウンドのレイヤーを広げている。
ミックステープでブレイクした後、常にヒット・シングルを世に送り続けているフレンチ・モンタナ。多くのドラマと共にこの『MC4』を引っさげ、今後もさらにスケールの大きいヒップホップ・ドリームを実現させてくれることは間違いなさそうだ。
【註1】しかもこのエピソードはドレイクとの楽曲「No Shopping」内にてリリックとして盛り込んでいる。
【註2】2016年12月1日、保釈金を払って釈放されました!
【註3】フレンチ・モンタナらの尽力により、刑期がぐんと短縮する可能性が。うまくいけば6年以内に出所が可能らしいです。
<作品メモ>この世界の片隅に
全然ヒップホップとは関係ないのですが、映画「この世界の片隅に」を観に行ったので思わず感想をしたためようかと…。
<以下、ネタバレがありますのでご注意を>
私の両親はともに広島県で生まれ育ち(父方に至っては江戸時代まで遡っても広島にずっと住んでいるほどの家系)、特に母方の祖父母は爆心地にも近い広島市出身でした。私も18歳までを広島市内で過ごしました。私の祖父は1945年8月6日、広島市に原爆が投下されたその日、学徒動員中だったそうで(比治山じゃったかね)、作業中に被爆して背中に大きな火傷を負い、以後、被爆者として生き抜いた人物です。祖父には被爆手帳も支給され、私は被爆3世ということになります。同時期、祖母は兄妹と一緒に県北へ疎開していたそう。ただ、二人とも戦争体験は私にも私の母にも、全く話そうとしなかったんですよね。祖父は被曝した上、親兄弟も原爆によって亡くしています。なので「この世界の〜」を鑑賞した際、当時の広島市内の様子がありありと再現されていて、スクリーンにアニメーションで描かれた風景の中に私の祖父母の「日常生活」も存在していたんだなあ、と思うとそれだけで泣けてきました。しかも、うちの祖母の家は、幼少期のすずが海苔を届けに行く中島本町の近辺で骨董品店だったかを営んでいたらしいんですよね。なので、余計に泣けてきた。
そして各所で語られていることですが、劇中ではこうした「広島」「呉」のディテールが本当によく描かれていて、特に広島市出身の私は(前述した理由もあって)一気に引き込まれてしまいました。ローカルなネタだと、すずがお嫁に行くために江波から呉まで列車で移動するんじゃけど、そこに「むかひなだ」の文字(⬅︎めっちゃ地元)、そして原爆直後の描写で「東雲から来た人はおらんか」のセリフ…。よくも東雲なんて地名を出してきたね、と思ったけど、ほんまにあの時、あの場所に東雲から呉まで歩いて逃げてきた人がおったんじゃろうね。辛い…。
方言ネタだと「たいぎい」「やねこい」(ともに面倒くさい、の意)、「つむ」(商店などが営業を止める、閉店する)などのドープな方言が出てきたのも嬉しかったし、リアリティがあった。小学校(当時は尋常学校か?)の男子は「カバチタレ!」って言ってましたね。
そして、戦争を生き延びてハッピーエンド!という終わり方だけではなく、その後、被爆者の方が背負っていくであろう苦しさの部分を匂わせる描写があったのもよかったです。すずが右手を失っているのはその最たる例だと思うのですが、わっ…と思ったのは、すずの妹のスミが被爆後に腕の痣を見せて「うち、生きられるんかねえ」と言っていたところ。もしかしたらスミちゃんはこの後、何十年も原爆症に苦しむ未来が待っているのかもしれん…と思ったらやけにツラい気持ちになりました(井伏鱒二「黒い雨」を思い出してしまいました)。だって、現にそんな広島市民はたくさんいるもの。あと、戦後の呉の闇市のシーン。ここから「仁義なき戦い」に繋がるんか…と、これまたハッとした。「この世界〜」も「仁義なき〜」も、私にとっては戦中・戦後の広島を知る大事な手がかりとなる映画じゃ。ほうじゃ、のんさんが喋る広島弁は、「仁義なき〜」で菅原文太が披露する広島弁と同じくらい違和感がなく、ずっしり心に響くもんじゃったわ。
とにかく、個人的には祖父母が語らなかった「戦時中の広島の暮らし」を知ることができて本当に良かった。祖父はすでに帰らぬ人なので、余計に。
広島の被爆者は、のちにNYのハーレムでマルコム・Xとユリ・コウチヤマさんと会っているんですよね。人種差別と立ち向かう(というか対立していた)マルコムは被爆者として差別を受けた人々に対し、シンパシーを感じとったそうです。
では、また何かあれば書きます。
参照リンク:
アリ・シャヒード・ムハマドさんのありがたいメッセージ
こんにちわ、ブログではお久しぶりです。
「ルーク・ケイジ」というNetflixドラマをご存知ですか?すでに日本語で書かれたいろいろな記事が出回っておりますので、ご存知ない方はぜひ調べてみてください。ちなみに、主人公のルークはよくフーディー(フード)を被っているのですが、「フードを被った黒人男性=怖い、というイメージが、ルーク・ケイジのおかげでかっこいいイメージに払拭された」と語る男性の小話がネット上で話題になっていました。
で、そんな「ルーク・ケイジ」のスコアを手掛けているのは、ア・トライブ・コールド・クエストのメンバーとしても知られるアリ・シャヒード・ムハマド氏と、あのDJプレミアもその手腕をベタ誉めしている新鋭音楽家、エイドリアン・ヤングです。WOOFIN' 誌(Vol.248 / 11月号)の企画で、「ルーク〜」に絡んだアリ・シャヒードさんのインタヴューを取らせて頂く好機に恵まれたのですが、その際に伺った「若者へのメッセージを」という問いに対するアリさんのお答えにグッときたので、ここでその答えの全文をシェアしたいと思います(誌面には、字数の関係で一部カットした文章が掲載されています)。
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(WOOFIN'は若い読者も多くて、10代や20代のファンにもメッセージを頂けますか?という問いに答えて)
この世代はとても特別な年代なんだ。人生で最も充実している時期だよ。色んなところにアクセスできるし、個性を伸ばすこともできる。学校に行って、ホワイトカラーの職に就いて定年退職して…あ、その前に子供ができるかもな…でもそればかりが楽しい人生ってワケじゃない。ちゃんと自分の内側を見て、やりたいことを見極めてくれ。若者ってのは常に周りのヤツらとは違う存在でいようとするものだし、たくさんのパワーがある。そしてネットワーク力も。それはテクノロジーやスマートフォンが辿り着ける場所じゃない。だから、自分が今、生きている時間を大切にして欲しい。愛情と情熱を捧げて、自分の内側にあるものに没頭して欲しい。誰かに嫌な思いをさせられることがあるかもしれないけれど、自分の人生を花開かせるように一生懸命突き進んで欲しい。素晴らしい時間を過ごせると思う。
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昨今はSNSが発達して、私もよく「自分が若い時にSNSが氾濫していなくてよかった…」と思うことがしばしばあります。もしも学生の頃にLINEやTwitterがあったら、絶対に振り回されていたと思う。SNS等で嫌な思いをしている若者がいたら「あなたの価値や人生は、テクノロジーやスマートフォンが辿り着けない場所にある」とアドバイス差し上げたいくらいです(老婆心ですね、完全に)。
アリさんのインタヴューが掲載されたWOOFIN' 誌(Vol.248 / 11月号)は、明日くらいには店頭から無くなってしまうと思うので、もしも興味のある方は店頭に急ぐか、amazonなどでポチっと入手することをオススメします。表紙はジェイデン・スミスくん。私もいろんなアーティストにインタヴューをさせて頂いておりますが、ここまで育ちの良さをオーラにまとったセレブリティはジェイデンが初めてです。っていうか、私が日ごろインタヴューさせて頂くアーティストは、ゲトーな雰囲気の方が多いから余計にクラってしまいました…。
あと、アリさんに「ATCQの新作が噂されてますけど?」と最後に聞いたら、「またそれかよ…」みたいなヴァイブスで「伝説はシールドしたままの状態の方がいい時もあると思う」とのことでした。
では、また何かあればブログにしたためますね。
ごきげんよう。
「アメリカのラップも聴いた方がいいですか?」という質問。
こんにちわ。昨今、ちまたでは<日本語ラップ>が盛り上がっていますね!
というわけで、最新の「サイゾー」誌には「増加する【ビッチ】ソングの是非」というテーマでコメントを(初めて取材していただく側に…照)、そして「ユリイカ」誌には「USラップシーンのトレンドの変容と日本語ラップ 」というテーマで寄稿させて頂きました。どちらも、お話を頂いた時には「私でいいのかな…」と思ったのですが、お声掛け頂き、とても光栄に思っております。
今日もラジオで喋ったんですが、「日本語ラップ!」と言われると、「英語のラップもあるよ!」と言いたくなってしまうのが私の性分でして…。
私、インターネットラジオ局・blocl.fmで「INSIDE OUT」という主に最新のHIPHOP情報をお届けする番組のホストMCをさせて頂いておりまして、今年でなんと5年目に突入します。もともとはラッパーのAKLOくんも一緒にホストを務めており、彼も番組に在籍していた時は「USの最新HIPHOP・R&B情報」をお届けすることにこだわっていて。というのも、今って海外の音楽ブログやサイト、音楽ストリーミング・サイトなどで日々発信される情報、発表される新曲はめちゃくちゃ多い割に、それを日本語で伝えるメディアって本当に無いんですよね。総合的な音楽サイトや個人のブログなどはあれど、海外のHIPHOPを割と専門的に扱っているメディアってほぼ皆無に等しいのでは無いでしょうか…。なので、リスナーが能動的に必死でしがみついていかないと、USを初めとする海外のHIPHOP情報にキャッチアップすることって結構ハードルが高いんですよね〜。しかも、英語という言語のハードルもあるし…。そんなわけで、USの、ってところに重点を置いていたわけなんです。今も、いろんな国内のラッパーやDJの方をゲストにお迎えしているけど、リアルタイムにUSのシーン、アツい新曲も積極的に紹介しているつもりです。
今、日本のドメスティックなHIPHOPシーンが成熟期を迎えていることもあって、ラップの楽曲が聴きたいと思ったら、日本だけの楽曲だけでも全然事足りちゃうんですよね。「HIPHOPは好きだけど、日本語ラップしか聴きません!英語のラップは分からないので聴きません!」と言われることもあったりして、もちろん、それはそれで喜ばしいことなんだけど、常にUSのラップ作品を追いかけてきた身としては一抹の寂しさも覚えちゃう…っていう。
USと日本って、HIPHOPシーンの産業規模が全然違っていて、道端でコカイン売ってたゴロツキの男性があれよあれよと言う間にラップで成功して、幾つか企業もM&Aなんかしちゃって、今では億万長者…ってことが本当にあり得るんですよね。地方の田舎者ラッパーみたいな扱いだったのに、今じゃ何本も人気映画作品に出演していたりとか。N.W.AのDr.ドレーなんて、今やアップルの役員ですからね…。なので、発表される作品もお金の掛け方や、新人ラッパーの契約金の額面も段違いだったりして、そうした点も端から見ていてとてもエキサイティングに感じてしまうんですよね。
で、当たり前だけどシーンの規模がデカいから、リスナーもラッパーも、その他関係者も、その母数がめちゃくちゃデカい。なので、日々発表される楽曲の数もめちゃくちゃ多い。その分、進化のスピードもハンパないし、次々と新しいトレンドが生まれる。
なので、HIPHOPシーンの「お手本」としてUSのシーンを追いかけることも、リスニング・ライフを楽しくする一つのポイントになるのではと思っています。たまに「アメリカのラップも聴いた方がいいですかね?」と聞かれるることがあるんですが、「聴いた方がいいですよ!」と返しています。
私はこういったサイトをよく見ています。英語だけど、見出しだけ読めばだいたい中身は予想がつくようになっていると思います。「XXXというラッパーのYYYという新曲が出たのか…」みたいな。
先日、ある方から「日本語ラップのMCたちが、USの最新ラップ曲を追いかけることに必然性はありますか?」と聞かれることがあったんですね。端的に言うと、私は「(必然性は)ある」と思います。そうすると、「日本のHIPHOPって、結局アメリカの黒人の真似だろ?」とたびたび言われることがあるんですよね。不思議ですが、私は以下のように考えていて。
例えば、イタリア料理に魅せられた日本人がいるとしますよね。日本のとある町の近所のピザがめっちゃ美味しくて、俺もこのピザを作れるようになりたいな、と思って、そのレストランで腕を磨く。でも、本場のイタリアの味も知りたいと思うようになり、実際にイタリアで修行して、それをベースに、日本でさらに切磋琢磨していく。同時に、本場ではピザを作る技術にどんな変化が生まれているのか?イタリアのピザ屋ではお客さんにはどんなモノが求められているのか?なんてことを常に気にするマインドも自然と生まれていくと思うんですよね。そんな彼のピザを「どうせイタリア人の真似だろ?」と揶揄する人はいるのかしら?寿司に魅せられたアメリカ人とか、相撲に魅せられたモンゴル人でも、なんでもいいんですけど。
もちろん、USで発達してきたHIPHOPシーンは奴隷制をルーツとした、アメリカ黒人の皆さんが抱える問題が色濃く反映されて来ていることも事実。抑圧された環境の中で「言いたいこと」があるから、みんな、それをライムにしてきた。HIPHOPのライブでもよく見かける「コール&レスポンス」というお客さんとの対峙の方法がありますが、あれも、もともとは奴隷制時代における黒人たちの労働歌が下敷きになっているとも言われていて、それがゴスペルに発展していったという側面があります。あと、畑を所有している主人に歌の内容が分からないよう、聖書の内容をいろんな比喩を使って歌詞に落とし込み、それを労働歌として歌っていた…とかね。これも、今のHIPHOPのリリックの要素と似ているよね。
ラップをきっかけにHIPHOPに興味を持った方がいれば、こうした背景も探ってみると面白いし、知っておくだけで全然違うと思います。その上で、その文化にリスペクトがあればいいんじゃないかな、と。
危ない危ない、どんどん話が脇道に逸れていってしまいました。その他、HIPHOPとパブリック・エネミーとかKRSワンとかの関係性は、気になる方は調べてみてください。あと、「ユリイカ」をどうぞ。私は特に、いとうせいこう氏が「鎖国はするな!」と仰っているのに感銘を受けたし、漢氏の「ラップはもはやヒップホップじゃなくて技術」というお言葉にもハッとしました。今、流行っている「ラップ」って、きっと表現方法の一つの手法としてのラップなんだよね。HIPHOPの文脈ではなくて。
そんなこんなで、じゃあ結局、USのHIPHOPシーンってどうなっとんの?という方は、「WOOFIN'」最新号を読んで見て下さい。
表紙はアトランタのスター・ラップ・トリオのMIGOS(ミゴス)です!すごいよ!
あとはINSIDE OUTもよろしくね!
ではでは〜。
アトランタの思い出。
みなさま、ごきげんよう。最初から分かっていたことではありますが、ブログの更新がめっきり滞ってしまいました。不甲斐ないです。
すでに色んなところで書いたり喋ったりしているんですが、先日、ゴールデンウィーク時期にアトランタまで旅行に行って参りました。3月には上海に、4月には出張でフランスに行っていたので、次の海外はどうしてもアメリカ大陸に行きたかったの。海外に行くことが決まると、いつもチェックするサイト。それはSongkick。ココとticketmasterなどをチェックして、滞在期間中にめぼしいライブがないかどうか確認するんです。同時に「そういえば、ビヨンセがツアー日程を発表していたはず!」と思い、スケジュールをチェックしたら、なんと5月1日にアトランタ公演があるではありませんか!これは何かの思し召し、と思って、アトランタ行きを決行した次第なんです。アトランタに行くのは人生二度目。一度目は、大学生のとき。当時はアトランタに知り合いなんぞもいるわけもなく、しかも、米国では未成年扱いだったのでクラブに行くなんてとんでもない!って感じだったんですね。おとなしく、キング牧師の生家や資料館を観て廻るに留まったのを覚えています。でも、そのときにレノックス・モールでデビュー直後のヤング・ジーズィーと遭遇したの。今でもハッキリ覚えています。あと、そこらへんの電柱にマイク・ジョーンズのデビュー・アルバムのポスターがべたべたと貼ってあった。マイク・ジョーンズならびに彼の所属レーベルであったSwisha Houseはヒューストンを拠点としているのですが、こうしたトピックからも、当時のテキサス・シーンの勢力のデカさが伺えるかもしれません(どうかな?)。
ちなみにこのころ。
さて、アトランタ滞在中は、現地に住む日本人フォトグラファーのアキさん
Aki 安希 (@YOJPGIRLAKI) | Twitter
に非常にお世話になりました。クラブに連れて行ってもらうのも、現地のアーティストの元を訪ねるのも、すべてアキさんのコーディネートによるもの。めちゃくちゃ感謝してます。アキさんから伺う話も、本当に一つ一つ貴重なモノばかりで、ずっと興奮しっぱなしでした。
いい話だな〜と思ったのは、NYのアーティストって、成功するとみんなニュージャージーやマイアミ、LAなんかに引っ越しちゃうけど、アトランタのアーティストは、ずっとアトランタに住み続けることが多いみたい。あんなに成功しているヴェテランのアウトキャストの二人も、ずっとアトランタ住まいだそうです。MIGOSは豪邸を建てて住んでいるらしいし、ディアンジェロのバック・シンガーとしても来日したジョイ・ギリアム(グッディ・モブのメンバー、ビッグ・ギップの元奥さん、かつ元ルーシー・パール)も、アトランタに住んでいるっぽい。ディアンジェロと仕事をしているくらいだから、てっきりハリウッドあたりに住んでいるかと思ってた!
でもって、アトランタのクラブやバー、ストリートなどを訪れて感じたことは、とにかくアトランタ産のヒップホップ・チューンしか掛からないこと!もちろん例外はチラホラあるけど、8割強が地元の楽曲って感じでした。NYともLAとも違う、ローカル・シーンのアツさをめちゃくちゃ感じた。もともとアトランタ産ヒップホップは大好物だったけど、さらに虜になりました。
そんなわけで、たった3泊の滞在だったけど、アトランタで聴いて印象的だったバウンシー・チューンを紹介します。
Future ”Wicked"
とにもかくにも、フューチャーはよく聴いた!この曲はストリップ・クラブで掛かってたのが位印象的。この間、INSIDE OUTのスタジオにDJイナフ氏が来た時も、DJ LEADさんがこの曲を掛けたら私に「アトランタのストリップ・クラブを思い出すんじゃない?」と話しかけてくれたほど。フックの「wicked(イカれてる)」が「wiggle(プリプリ揺らす)」に聴こえるからかな?
Future "Thought It Was A Drought"
こちらもフューチャーですね。昨年のアルバム『DS2』から。この曲からは、「グッチのサンダルを履いた女」ってラインがややバズったのですが、クラブでもみんなそこのラインを合唱していた!この曲、大好きなんですが東京のクラブでは聴いたことがなかったのでめちゃくちゃ嬉しかったです。
Bankroll Fresh "Trap"
北部のクラブに行った時、サイドMCがバンクロール・フレッシュ(彼は3月4日、アトランタ市内のスタジオ付近にて銃に撃たれ死亡。現場には50発もの薬莢が落ちていたとか…)への追悼シャウトをカマしていたのも印象的でした…。R.I.P…。
YFN LUCCI "YFN"
注目の若手、YFN ルッチも地元からの人気が高そうな感じでした!ストリップ・クラブで隣にいた男の子に「この曲、誰の曲か知ってる?YFNだぜ!」と言われたから、「YFN ルッチでしょ!知ってるよ!」とact like you knowスティーズで返してしまった。
Quality Controlチューン、いろいろ
でもって、あとは地元の新鋭レーベル、Quality Control(QC)の勢いが凄かった!もちろん、みんな、QCの事は知ってるし、クラブでもホンマによう掛かってたし、アトランタの地元シーンはQCが牽引しているというイメージでした。アキさんのお陰で私もQCのスタジオに行かせてもらったんですが、入り口も厳重でめっちゃ豪華なスタジオ。MIGOSもOGマコもココでレコーディングしてるのか〜と思うと震えました。ここのレーベルからは、ホセ・グアポ、リッチ・ザ・キッド、ジョニー・シンコなどなど注目株がたくさんいるので、皆さんもチェックしてみて。ジョニー・シンコと話した時に、調子に乗って「QCは日本でも大人気だから、ぜひみんなでツアーしに来て!」と言ってしまったけど、みんなクリミナル・レコード(逮捕歴)もバッチリついてるだろうし、入国は難しそうだよね(笑)。
O.T. Genasis "Cut It"
いやはや、日本でも流行ってると思うけど、これもよく聴いた。ビヨンセまで、ツアーのセットリストに入れ込んでいたのにはびっくり。O.T.ジェナシスってアトランタ生れ、ロングビーチ育ちってことになってるけど、アトランタにいたのはいつ頃なんだろ?
"Cut It" と”Panda"で踊るビヨンセ。
Fat Joe, Remy Ma "All The Way Up ft. French Montana, Infared"
非アトランタ産チューンで印象に残っているのはコレくらい。
あと、北部のクラブでシャイ・グリージーの曲が掛かっていて(何だったか思い出せない…)、それも盛り上がっていたな〜。
ここには書けないことも諸々あって、本当に素晴らしい滞在でした。地元のHPHOPラジオから流れてくる音も、ことごとくエキサイティングだった。アキさんの車に乗せてもらう以外は、たいていUBERを使っていたんだけど、彼らの車の中でもほぼ100%、地元のHIPHOPラジオが流れていて、マジで四六時中大好きなトラップ・ビートに包まれている生活で最高でした(3日間だけだったけど)。UBER、唯一の例外は帰国する前日の夜中に最後に乗ったライドで、黒人のマダムが運転手だった。掛かっていたのはスムースJAZZのラジオ。「うちの家族はみんな楽器を弾くんだけど、アトランタにはいいジャズ・クラブが無くてね〜」と言っていた。ちなみに、私の滞在中、スナーキー・パピーもアトランタ公演をやっていて、無理をしてでも観にいっておけばよかったな〜と後悔しているところ。
こないだ、ピーウィー・ロングウェイやホセ・グアポらと仕事をしたフランス人DJと話してたんだけど、やはり彼らがスタジオで醸し出すヴァイブスは本気すぎてヤバい、と、みんな、ドラッグを捌いてハスリングするか、ラップして稼ぐかしか方法が無いから、と。スタジオに来て、まずみんなポケットからテーブルの上にガンを出して制作にとりかかるんだって。まあ、日本じゃ関係ないかもしれ無いけど、やはり彼らのそうしたバックグラウンドが染み付いているのがアトランタのHIPHOPなんだなあ…と。あと、ストリップクラブのカルチャーね(これについては今度、どこかで喋りたいです><)。
私、早くも、またアトランタに行きたいと思っています。若者たちは、どんどん海外旅行に行った方がいいよ〜。円高のうちに、ぜひ!
そして、コレ以外のアトランタの諸々は次号の『Woofin'』でも書かせてもらっていますので、またお知らせしますね!
最後は、アラサー世代にはたまら無いアトランタ・アンセムでお別れです。
では、また。