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HIPHOPうんちくん

おもに米HIPHOPの新譜やアーティストのうんちくなどについてつらつらと執筆するブログです。

フレンチ・モンタナ『MC4』ライナーノーツ原稿公開

こんばんわ。

11月にリリースされたフレンチ・モンタナの『MC4』、もう聴いた〜?これ、普通にリリースする正規のアルバム作品としてほぼ全て完成していたんだけど、楽曲のサプリングのクリアランス問題で発売がずっと先延ばしになっていたの。そして、そうこうしている間に全曲がネットにリークしてしまい、結局『MC4』はフリーDLのミックステープとして発表されることになってしまったのでした。

 しかもしかも、日本のソニーさんも『MC4』の国内盤を出す予定でして、にゃんとと私がライナーノーツ&全曲分の対訳を担当させてもらう話になっていたんですね。しかし、「一式納品した!」と言うタイミングで、アルバム発売中止が決まったのでした…。というわけで、お蔵入りしてしまった原稿をこのブログに掲載したいと思います(レーベルご担当者さまの許可は頂いております)。ちなみにレーベルの方は私が「Ocho Chinco」の解説をしているのをきっかけに、今回のお話を依頼してくださったそう。えげつない下ネタでも何でも、喋っておくものですね。

では、お読みください。

(以下、ライナーノーツ原稿)

 今年の7月、ニューヨークの老舗ヒップホップ・ラジオ局、HOT 97が日本で主催するヒップホップ・フェス「SUMMUERJAM TOKYO」に出演するために初来日を果たしたフレンチ・モンタナ。くだんのフェスでは大トリを飾り、ヒット・シングルをこれでもかとパフォーム。2016年のヒップホップ・シーンを牽引するスターMCとしてのカリスマ性を遺憾なく発揮し、数千人のオーディエンスを魅了した。少年時代に故郷のモロッコからブロンクスに移住し、ひたすらヒップホップ・スターを目指してマイク稼業を続けてきたフレンチだが、ストリートでDVDを売りながら2007年にミックステープ『French Revolution Vol. 1』でデビューした当時、ここまでの成功を誰が予想していただろうか。

 まず、本作『MC4』に至るまでの彼の動きをレヴューしていこう。ミックステープを中心にラッパーとして活動しながら、2011年にパフ・ダディ率いるBad Boy Recordsと契約し、2013年にはデビュー・アルバム『Excuse My French』をリリース。ジャリル・ビーツやヤング・チョップ、そして中堅ドコロのリコ・ラヴらを製作陣に招き、まさに旬なクラブ・バンガーを詰め込んだ傑作となった。何よりも驚くのが、その豪華なゲスト陣。1991年にルークが放ったヒップホップのクラシック・パーティー・チューン”I Wanna Rock”をサンプリングした”Pop That”はドレイク、リック・ロス、リル・ウェインを、レゲエの定番曲、チャカ・デマス&プライヤーズの”Murder She Wrote”を大胆に引用した”Freaks”ではニッキー・ミナージュを、そしてNFLの同名選手をモジった”Ocho Cinco”のリミックスにはレーベルのドン、パフ・ダディにマシンガン・ケリー、ロス、レッド・カフェらを招き、フレンチのデビューを祝うかのごとく、ヒップホップ・シーンじゅうからホットなMCらが集まった。ファースト・アルバム発表後、2014年にはすでに本作『MC4』のリリースを示唆していたのだが、その製作意欲はアルバムのみにとどまらず、アルバム『MC4』をリリースするまでにクルー名義での『Coke Boys 4』、プロデューサー、ハリー・フラウドとのタッグで発表した『Mac & Cheese 4: The Appetizer』、豪華ゲストが集結した『Casino Life 2』、フェッティ・ワップとのコラボ作となる『Coke Zoo』、そして、マックス・Bとのコラボ・ミクステ『Wave Gods』 と、実に5作ものミックステープを発表しており、ファンを飽きさせることなく驚異の多作っぷりを証明して見せたのだった。

 また、ここ数年、フレンチといえばその派手な交友関係もしばしば話題に上るほど、セレブ然とした生活を送っていることでも知られる。2012年に前妻のディーン・カーボウチと別れた後(ちなみにフレンチにはディーンとの間に長男・クルーズがいる)、マイアミのヴェテラン・ラッパーであるトリーナや、モデルのソフィア・ボディとも恋仲を噂され、そしてその後、キム・カーダシアンの実妹であるクロエ・カーダシアンとの交際をスタートさせた(2014年に破局済み)。カーダシアン家といえば、リアリティ番組を通じて世界中に仰天のセレブ生活を発信している有名人一家である。というわけで、クロエとの交際期間中には彼女たちのリアリティ番組にも度々フレンチの姿が放送され、ヒップホップ以外のシーンでもお茶の間にその名を轟かせた。なお、キム・カーダシアンの配偶者はあのカニエ・ウエストであり、クロエとの交際期間において、フレンチはさらにカニエとの絆を強固なものにしたのではないかと邪推する。ただ、こうした幅広い交友関係がそのまま彼のキャリアにも繋がっており、ジェニファー・ロペスとの"I Luh Ya Papi"や、マイリー・サイラスやウィズ・カリーファと共に参加したウィル・アイ・アムの"Feelin' Myself"、クリス・ブラウンの”Loyal”、そしてあのジェイ・Zと共演したDJキャレドのシングル”They Don’t Love You No More”など、フィーチャリング・アーティストとしても引っ張りだこに。なお、つい最近では”Fancy”のヒットでもおなじみ、オーストラリア出身の白人女性ラッパーであるイギー・アゼリアとの交際が噂されたり、ロサンジェルスの超高級住宅地であるカラバサス内にある豪邸を、セレーナ・ゴメスから330万ドルで買い取ったというニュースが報じられたりと【註1】、ゴシップには困らない様子。こうした彼の派手な動きを見るにつけ、所属レーベルのオーナー、パフ・ダディの華麗で豪奢な姿とかぶってしまうのは筆者だけだろうか。

 もちろん、こうした華やかな生活だけがフレンチの全てではない。順風満々なキャリアを歩んでいたフレンチに悲劇が起こった。2015年5月17日、フレンチ・モンタナのクルー、Coke Boysの主要メンバーであり、キャリア初期から常にフレンチと共に活動してきたラッパー、チンクス・ドラッグズことチンクスが車中で何者かに撃たれ、享年31歳でその生涯を終えることとなったのだ。常にチームをレプリゼントしてきたチンクス。彼のヒット曲、その名も”Coke Boys”は、フレンチとともにクルー愛を歌い、スマッシュ・ヒットとなった楽曲でもある。チンクスの逝去後間もなく、フレンチはインスタグラムに「自分の兄弟分がこんな風に去ってしまうのは辛い。彼は間違いなくリアルな奴だった。こんなのは間違ってるよ。ストリートは俺らに対して愛なんかない」とポスト。最愛の片腕を亡くした彼の失望感は計り知れない。

 そんな人生の紆余曲折を経て発表されたのが、待望のセカンド・アルバム『MC4』だ。ちなみにこのタイトル、彼がインディ時代から発表し続けていた自身のミックステープ『Mac&Cheese』シリーズに由来するもの。フレンチといえば、とにかくキャッチーなヒット・シングルが要であることは周知の通り。本作からはまず、カニエ・ウエストとナズを迎えたM-1”Figure It Out”がリード・シングルとして発表された。本楽曲、もともとは先述したミックステープ『Wave Gods』に収録された楽曲であり、非情な現実世界を憂うブルージーなチューンである。なお、カニエとナズが同一の曲に参加するのは、この『Figure It Out』が初めてとのこと。印象的なサンプリング・ソースは、カナダ・トロント出身のバンド、ウィー・アー・ザ・テイクの” Montreal Love Song”だ。そして、セカンド・シングルとしてリリースされたのはM-8”Lockjaw”。フィーチャリングで参加しているのは、まだ若干19歳の若手ラッパー、コダック・ブラック。このコダック、その若さゆえかヤンチャな行動が多く、2016年9月の現在も、複数の罪状により、まだ刑務所の中で判決待ちの状態【註2】。ただ、有名ヒップホップ雑誌のXXL誌が選ぶ期待のMC10名にも選出されており、業界内からの期待は非常に高い存在でもある。そして、これらシングル以外にも豪華なゲストの名が並ぶ。M-5”Evreytime”はアトランタからジーズィーを召喚し、スリリングなハスラー・ラップを聴かせ、M-6には同じニューヨークのシーンを背負うA$AP・ロッキーが参加。リリック内で繰り返される印象的な「Oh My God, Oh My God」のフレーズは、かのバスタ・ライムスがア・トライブ・コールド・クエストの名曲”Scenerio”内で発したもので、これは二人なりのニューヨーク・アンセムと言えるかも?ロッキーも、これまで以上に軽妙なライミングを楽しんでいるようで、二人の好相性差が伺える。他、M-11ではR&Bシンガーのミゲルを呼び込んでグッとセンシュアルな雰囲気を纏わせたかと思えば、M−13"Have Mercy"ではビーニー・シーゲル、ジェイダキッス、そしてスタイルズ・Pといった1990年代後半からニューヨーク・ヒップホップ・シーンを支え続けてきた先輩らを招き、 重厚感あふれるマイクリレーを実現させている。そして、本アルバムにおける最重要ゲストといえば、M-14. “Chinx & Max / Paid For”にフィーチャーされたチンクスとマックス・Bだろう。前述の通り、若くして銃弾に倒れてしまった盟友・チンクス。そして、マックス・Bはフレンチがまだ無名の頃からとも活動してきたハーレム出身のラッパーだ。もともと、キャムロンやジム・ジョーンズらディプロマッツのメンバーとも共に活動してきたマックス・Bだが、2009年に第一級殺人ならびにその他の余罪を問われ、75年という超長期刑を受けて現在も収監中だ【註3】。ただ、フレンチにとってはラッパーとして活動をスタートした頃から自分を支えてくれた大切な同胞である。本楽曲ではチンクスを失った悲しみとマックス・Bの非情な状況とを重ねあわせて人生の悲哀を語り、曲中には、獄中からの電話を通してレコーディングしたマックス・Bの肉声、そして彼の母親からのメッセージをフィーチャーしている。楽曲の後半ではマックス・Bとチンクスのヴァースを合わせて、もはや実現不可能になってしまった3MCのコラボを実現させることに成功。涙無くしては聴けない一曲に仕上がっている。

 そして、多くのヒット曲を連発しているフレンチらしく、本作品に参加しているプロデューサーもホットな面子が揃った。業界からも注目される新星、リル・ウージー・ヴァートの代表曲”Money Longer"でその名を挙げたマーリー・ロウ。ミーゴス”Pipe It Up”を始め、リル・ヨッティーからドレイクまでを手がけるカナダ出身のマーダー・ビーツに、これまでにエミネムやジェイ・Zらのビートを手がけてきたヴェテラン、DJキャリルや、サイプレス・ヒルモブ・ディープ、ファット・ジョーに50セントら、数々のヒップホップ・クラシックを生み出してきたジ・アルケミスト、そして、これまでにもフレンチと共に多くの代表曲を作り上げてきたハリー・フロウドやアール&Eも参加し、これまでのフレンチの世界観を踏襲しつつ、新たなサウンドのレイヤーを広げている。

 ミックステープでブレイクした後、常にヒット・シングルを世に送り続けているフレンチ・モンタナ。多くのドラマと共にこの『MC4』を引っさげ、今後もさらにスケールの大きいヒップホップ・ドリームを実現させてくれることは間違いなさそうだ。

 

 【註1】しかもこのエピソードはドレイクとの楽曲「No Shopping」内にてリリックとして盛り込んでいる。

【註2】2016年12月1日、保釈金を払って釈放されました!

【註3】フレンチ・モンタナらの尽力により、刑期がぐんと短縮する可能性が。うまくいけば6年以内に出所が可能らしいです。