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HIPHOPうんちくん

おもに米HIPHOPの新譜やアーティストのうんちくなどについてつらつらと執筆するブログです。

リアーナ『ANTI』無料リリースに関するアレコレ。

<2016年2月2日 追記・加筆修正アリ> 

アメリカ時間の1月28日、リアーナの最新作『ANTI』が急遽、サプライズ・リリースされました。

 彼女の8作目となるこのアルバム、もともとは『R8』と名付けられていましたが、最終的には「反対、敵対」などの意味を表す『ANTI』がタイトルに。

(ちなみに日本語では「アンチ」と発音しますが、英語の発音は「アンタイ」となります。日本のユニバーサルさんの表記は「アンチ」ですね)

これまでにカニエ・ウエストとポール・マッカートニー(!)と制作した” "FourFiveSeconds"や、過激なMVも話題になった” "Bitch Better Have My Money"(大好き♡)、はたまたコンシャスに攻めた"American Oxygen"などのシングルを発表してきましたが、どれも収録されず。

でもって、1月27日に突如『ANTI』からのファースト・シングルとしてドレイクを迎えた”Work”が発表になり、その数時間後、音楽ストリーミング・サイトのTIDALにて『ANTI』の全曲が何らかのミスで丸ごとリーク、その後に正式ストリーミング開始、そしてそして何と、非TIDAL会員もゲットできるダウンロード・コードを発行して『ANTI』を無料でバラ撒き、世界にリアーナ・クレイズを巻き起こしたのでした。

この辺りの顛末に関しては、日本語でも報じられているニュース記事など検索してチェックしてみてください。

 でね、この無料リリースに至るまではいくつかのストーリーがございまして。まず、リアーナは2012年にリリースしたアルバム『Unapologetic』を最後に、2014年にはユニバーサル傘下のDef Jam Recordingsを離脱しているんですね。でもってジェイ Zが立ち上げたRoc Nationと契約しているのですが、自身の音源発売に関しては自主レーベル、Westbury Road Entertainmentを立ち上げて、そこからリリースすることにしたの。そしてもう一つ画期的なことがあって、その際、リアーナは自分の音源の原盤管理もWestbury Road Entertainmentで行うことに決めたんですね。実際、Roc Nationは当初こそソニー・ミュージックとパートナー契約を結んでいたんですが今はユニバーサルと契約を結んでいるので、『ANTI』も広義でいうとユニバーサルからのリリースということになるんだけど。ただ、彼女みたいなデビューからずっと大メジャー路線、しかもアイドル路線で売ってきたソロ・アーティストが自身で原盤管理を行うことはとても稀だと思います。この辺の動きは、ジェイの差し金ではなく、リリちゃん本人の意思だったと思いたいですけど(余談だけど、彼女は去年、ヘアメイクやスタイリストらが所属する事務所も立ち上げています。素晴らしい!)。なので、リアーナ本人が自分の楽曲をいかようにも使うことができるんですよね。前なら「この曲をXXXのCMで使いましょう」という案件が来ても、最終決定はリアーナよりもユニバーサルが行っていたんじゃないかしら。その場合、クライアントから支払われる楽曲使用料などに関わる利益もユニバーサルとリアーナでシェアしていただろうから、今後はもっとリアーナの手取りも多くなるのでは、と思います。

 そこで今回、無料リリースの枠組みを作るにあたり、大きな役割を担ったのがSAMSUNGです。2015年の秋に報じられたニュースでは、なんとSAMSUNGが約35億円の金額を払い、リアーナのスポンサーに付いたと。アルバム1枚だけではなく、その後に続くワールド・ツアー(現時点で69公演が決定しています)もまるっと含めたスポンサー契約だそう。すごい!

nypost.com

 ちなみに35億円分をアルバム単価の1900円(日本のiTunesStoreを参考にしました)で割ると184万枚くらいの規模になりますよね。というわけで、今回の作品はSAMSUNGが既に200万枚近くの枚数を買い上げたというロジックにもなります。

 そして、SAMSUNGとビッグ・アーティストのアルバム・ディールといえばどうしたって2013年にジェイ Zがアルバム『Magna Carta Holy Grail』をリリースした時のことを思い出しちゃいます。

wired.jp

この時も、ジェイの新作アルバムを丸ごとSAMSUNGの携帯機種のプロモーションに使用していたんですよね。で、前述の通りリアーナジェイ Zの事務所兼レーベル、Roc Nationに所属していますから、今回のディールも、締結に至るまでにジェイが暗躍したとも言われています。

 そしてもう一つ、今回先頭を切って『ANTI』の解禁を行ったストリーミング・サービス、TIDALはジェイ Zによって運営されているサービスです。

www.excite.co.jp

 というわけで、今回の無料リリースにはリアーナ一人の意志だけではなく、こうしたバックグラウンドがあったのですね。

 アーティストの待望の新作アルバムそのものが、ある特定の企業のプロモーションに使われることを怪訝に思うファンも少なからずいると思います。私も今回、このようなリリース形態に疑問を感じて、すぐにフリーでDLしようとは思いませんでした(結局、iTunesで発売されたデラックス盤を購入しました)。ジェイが企業と組んで自分のアルバムをプロモーションに使うことに対しては、「さすが実業家のホヴァさんよのう、コカインの売人がここまでの存在になったのね…(感嘆)」という気持ちになるのだけど、リアーナの場合は「もしかしてホヴァと企業に搾取されているのでは…」とちょっと心配になっちゃったのよね。この件、ジェイの奥方ビヨンセは一体どう思っているのかしら。「新作アルバムをタダで振舞うなんてありえな〜い」とか思ってそう、絶対に。

 とはいえ、シングル”Work”では1stアルバム以来封印(?)していたレゲエ〜カリビアンなパトワ語を多く用いた歌い方(彼女はカリブ海バルバドス島出身)を再び披露していること、これまでのアルバムのジャケットには全てリアーナの顔写真が用いられていたのに、今回はそうではないこと、アルバムの中身も、これまで以上に内省的なリリックの楽曲が多いことなどから『ANTI』と名付けられた今回の作品は、リリース形態も含めて、新たなリアーナの門出を祝うにふさわしい作品になっていると感じるようになりました。

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↑2015年10月、ファン・ミーティングの場で『ANTI』のアートワークを発表したリアーナ。デザインを手がけたのは、在NYのイスラエル人デザイナー、ロイ・ナチュム氏。

www.billboard.com

 この『ANTI』、リリースから14時間の間に1300万回のストリーム再生回数を記録したらそう。SAMSUNGとの契約金、そしてTIDALとの契約スキームに則ったリアーナへの収益金(ストリーム再生1回によって生じる利益)とを併せると、リアーナへは過去最高の利益額がもたらされるとか(参考までに、リアーナの前作『Unapologetic』の初週売上枚数は238,000枚とのこと)。こうやって、アーティスト一人一人がフレキシブルに収益源を確保・拡張できると、音楽業界ももっと潤うかもしれませんよね。

 というわけで、『ANTI』に関するアレコレを綴ってみました。今後、ちょこちょこ補完していくかもです。

 では、またね。