HIPHOPうんちくん

おもに米HIPHOPの新譜やアーティストのうんちくなどについてつらつらと執筆するブログです。

アリアナ・グランデ マンチェスター公演テロ事件に寄せて

すみません、普段こういう時事的なポストはしないのですが…(というかブログ自体頻繁に更新しないのですが)。あまりにもこの事件がショックすぎて、ツイッターで言うのもな、と思いブログにしたためます。

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今朝、出勤前にテレビから飛び込んできたニュース。イギリス・マンチェスターで歌手のコンサート会場で爆発があったと。死者もいる、と。

慌てて画面を見ると、アリアナ・グランデのコンサートだと報じられていました。そして、会場はマンチェスター・アリーナ。ここの会場、なんとたった数週間前に私の知人がコンサートを観に、わざわざ東京から訪れていたアリーナだったんです。私自身、この間の連休にはアトランタでフューチャーのライヴを観たばかりだったので、何というか…背筋が凍るようでした。

事件の詳細はこちらから。

亡くなった22名の犠牲者のうち、16歳以下の子供は12名にのぼるそうです。

アリアナといえば、圧倒的な歌唱力はもちろん、キュートであり、セクシーさを打ち出しながらもヘルシーな魅力もあって、世界中の女の子の憧れだったはず。お客さんの多くはティーンの女の子だったことでしょう。お小遣いを貯めて、やっとの思いでこの日を迎えた子もいるかもしれない、アリアナを追いかけて他国からマンチェスターを訪れた子もいるかもしれない。アリアナに近づきたくて、前日の夜に友達とファッションやメイクについて話していた子もいるかもしれない、コンサートが終わって、興奮しながらSNSに感想を書き込んでいた子もいるかもしれないーー。目撃者の証言として報じられていた内容には「ちょっと早めの誕生日プレゼントとして、家族からアリアナのチケットをもらった。人生で初めてのコンサート体験だった」と、8歳の息子のことを語る親もいました。本当にやるせない気持ちです。決してこれが、大人ばかりが集うコンサートだったらいいのかとかそういうわけではないですが、よりによって低年齢のファンも多いアリアナ・グランデのコンサートを狙った、という事実がただただ辛い。彼女に憧れていたような、キラキラした女の子たちの命がいくつも奪われたと思うとやるせません。

アリアナのステージを観て、本来であれば夢や勇気をもらうはずだったコンサート会場でこんなに凄惨な事件が起こってしまったこと、本当に本当に残念に思います。

日本のニュースで「イタリアで行われるG7のサミットを目前にしたアンチ・トランプ(アンチ・アメリカだったかも…)のテロリストによる犯行ではないか」と語っているコメンテーターもいましたが、トランプもしくはアメリカへのヘイトを込めてこのコンサートが狙われたのなら、余計に残念です。ちょうど先日、ある女性向けの媒体から「トランプとヒップホップ」についての原稿を依頼されていたばかりで、改めてケンドリック・ラマーやロジック、ジョーイ・バッドアスらのアルバムを聴き返して、彼らの音楽やリリックが持つパワーを再確認していたところでした。なので、歌やエンターテイメント作品の持つパワーは結局無力なのか、それどころか、テロ事件に利用されてしまうのか…と勝手に気持ちが沈んで行きました。

ちなみに、ドレイクも先日ヨーロッパ・ツアーが終了したばかり。アリアナの事件を受け、インスタグラムにこんなポストを。

(俺たちもヨーロッパのツアーを終えたばかりで、こんな恐ろしいことが起こるんじゃないかとよく話していた。そんなことが現実に起こってしまい、押しつぶされそうな気分です。事件に巻き込まれたすべての遺族の方にお悔やみを。マンチェスターのために、そして、アリアナにピースな心が訪れるように祈ります)

アリアナはまだツアーの真っ最中で、スケジュール通りであれば、次は5月24日にロンドン公演が控えています。TMZは彼女がツアーをキャンセルするらしい、と報じているけれど、現時点(日本時間5/23 23時)では、公式のアナウンスメントは発表されておらず、アリアナのHPには予定通りのツアーの日程が。8月には来日公演も予定されていますが、個人的には、歌手アリアナ・グランデではなく、23歳の女の子として、今はゆっくり休んで心を鎮めて欲しいなと思います。そして何より、命を奪われてしまった方々へご冥福を祈ります。
 

映画「ムーンライト」と『DAMN.』、そしてコダック・ブラック

こんにちは。

話題沸騰中の映画『ムーンライト』ですが、先日、二度目の鑑賞を終えました。

二度目となるとやはり細かい点にも気が付くもので、フアンが下の歯にゴールドとダイヤのグリルをはめ、真っ白いNIKEエアフォースワンのハイカットをバチっとロックしている姿など、改めてかっこいいなと思った次第です。ちなみにブラックは上下の歯にプレーンのゴールドのグリルだったので、そこはフアンと違うんだ〜などと思いながら観ていました。映画本編の冒頭のシーン、フアンが自分の手下のハスラーと話すとき、手下の彼がフアンに対して「thanks for the opportunity」と言うんですよね。ドラッグを捌くことはいけないことだと思うけど、貧しい地区でサヴァイヴしていかねばならない彼らには、そうせねばならない、それぞれの理由がある。確かこのあと、彼とフアンの間で「母さん(の病状)は?」「良くなっている」みたいなやり取りもあったかと思うのですが、手下の彼は、フアンからの手助けがないと家族を養い、母を看病することは出来ないのかもしれない。なので、ドラッグを捌いて金を受け取ることは彼にとってまぎれもない「opportunity(好機、チャンス)」なんですよね。たとえそれが、社会的に許されないことだったとしても。学校でシャイロンをいじめるテレルという少年(ちょっとワカ・フロッカ・フレイム的ヴァイブスを感じてしまうのだが)が出てきますが、彼もシャイロンへ投げつける言葉の中で「お前、(フアンの女の)テレサの所にいくのかよ?」とフアンの影をチラ付かせます。不良気質のテレルは、もしかしたら地元の名ハスラーである(ことが推測される)フアンに憧れていたのかもしれないですね。なので、フアンがかわいがっていたシャイロンのことを余計にいじめてしまうのかも…など、勝手に想像してしまいました。

 そして、二度目の『ムーンライト』を鑑賞して、私は改めてフアンとシャイロンの関係性についても色々と考えてしまったんです。例えば、物語のキーともなる、フアンがシャイロンに泳ぎを教えるシーン。シャイロンにとって、初めて海で泳ぐという体験をした日です。二本の脚を使って陸で歩くのとは異なり、手足をかき回すようにして海の中を泳ぐのは、これまでの日常世界とはまったくことなる「スキル」が必要。これまで、シャイロンに泳ぎを教えてくれる人なんて誰もいなかったのかもしれない。新しい世界で生きる術を教えてくれた人、シャイロンの人生のガイド役となったのがフアンだったのでしょう。劇中、フアンが「ドアに背を向けて座るな」と説くシーンがありましたが、恐らくフアンは自身の命を落とすまでにたくさんの「ハスラーズ・ルール」をシャイロンに教えたのではと思います。ちなみにこの時、勝手に私の頭の中に流れたのはハスラーたるもの…と<ギャングスタな心構え>が説かれる2パックの“Ambitionz Az A Ridah”でした。

物語が進んでいき、大人になったシャイロン(ブラック)が車に乗せていたのは、フアンから譲り受けたと思われる、王冠のフィギュア。誰もが「俺はキングだ」と思いながらサヴァイヴしているのが、彼が住む世界なのだなあ、と感じたのです。

でもって、これらのことを「俺には王の血がDNAに組み込まれているのさ!」と歌うキング・ケンドリックことケンドリック・ラマーの世界観にも照らし合わせずにはいられませんでした。鑑賞直前まで彼の最新アルバム『DAMN.』の原稿を書いていたから、ということもあって余計にそんな風にトレースしてしまった。映画『ムーンライト』はジャマイカ・キングストン出身のベーシストでもある、ボリス・ガーディナーの楽曲“Every N***** Is A Star」で幕を開けます。

ヒップホップ・ファンならハッとするかもしれませんが、この幕開け、ケンドリック・ラマーの3作目『To Pimp A Butterfly』とまったく同じなんです。しかも、監督のバリー・ジェンキンス氏はケンドリックの『TPAB』で初めてこの曲の存在を知ったそう(ちなみにボリス・ガーディナーも当時、ジャマイカで作られたブラックスプロイテーション映画のためにこの楽曲を制作したんですって)。

『ムーンライト』では<リトル、シャイロン、ブラック>と、1人の「シャイロン」のストーリーが3部に分かれて展開されますが、『DAMN.』に収録されている”FEAR.“という曲において、ケンドリックも7歳、17歳、27歳の頃の自分のストーリーを3つのヴァースに落とし込んでラップしてるんです。<とことん自分の内面と向き合いながら、変化や困難を受容していく>というテーマにおいても、双方の作品の共通性を感じてしまいました(やや強引かもしれないけど、マジでずっと『DAMN.』のことを考えながら観てたので笑!)。

また、『ムーンライト』の舞台となっているフロリダのリバティシティですが、同じフロリダのプロジェクト出身の若きラッパーがいます。最初に『ムーンライト』を見てから、彼のことも頭からずっと離れずにいました。彼、コダック・ブラックという名前なのですが、リバティシティのプロジェクト(低所得者用住居、またはそうした住居が並ぶエリア)からもほど近い、フロリダ州のポンパノ・ビーチというところの出身で、両親はハイチからの移民だとか。

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現在、まだ19歳なのですが17歳頃から彼のリリースするミックステープが高く評価され、ドレイクやフレンチ・モンタナにもフックアップされるなど、サウス・エリアの若きホープとしてヒップホップ・リスナーからの注目を多く集めていました。

ただ彼、かなりの悪ガキで、幾度となく逮捕〜少年院送り〜裁判〜釈放を繰り返しています。今現在も、暴行容疑で係争中だったり。そんなコダック、つい最近、デビュー・アルバム『Painting Pictures』を発表したばかり。テキサス・ラップの重鎮、バン・Bからアトランタのスター、ジーズィーやフューチャー、ア・フーティー・ウィッダ・ブギーらが参加しており、共演メンツはめちゃくちゃ豪華。そんなコダックなのですが、アルバムの発売と同時にショート・ドキュメンタリー動画『Project Baby』も発表したんですね。このタイトルは、彼がキャリア初期に発表したミックステープに由来します。全編、Youtube上で無料で観れますので是非。

で、その『Project Baby』に出てくるコダックのフッド(地元)の様子が、『ムーンライト』でシャイロンが育ったプロジェクトにそっくりなんですよ。痩せた芝生に覆われた低層階の家や、フェンスで囲まれたエリアなどなど。偶然ですが、コダックも「ブラック」というニックネームで呼ばれていたそうです。映像の中では、コダックの兄や友人たちまでもがフッドを案内してくれますが、自分が生まれ育った地元であっても、常に油断はできない緊迫した空気が漂い、生々しく我々の目に映ります。動画内では「もしも俺が私立の学校に行ってれば、ゴタゴタに巻き込まれずに済んだと思う。でも、そんな学校に行っていたら、今の俺は存在しないもんな。学校に行ってもさ、みんなフレッシュにキマってるのに、俺だけフレッシュじゃない。俺が学校に行くのは、一発カマして新しい服をゲットした日だけだった。俺の人生は、血と汗、涙(blood, sweat and tears)…そして復讐(revenge)なんだ」と語るコダック。わずか19歳にして人生は復讐だと定義づけるとは…。また、彼は自身のラップを「映画みたいだ」と説明します。自分がリアルに体験していることを楽曲にする。それを聴いたリスナーは、まるで自分が同じことを追体験しているかのように感じる、と。「俺はラップはしない。リアルなことをイラストレイトしているのさ」と語ります。動画の中で最も印象的だったのは、父親のことを語るコダックの姿です。

「写真の中に親父は居ない。もし親父が俺のそばにいたら、俺はこうなっていなかったはず。一度、自分が捕まった時に、めっちゃ親父に会いたいと思った。もしも親父が死んでも泣かないと思う。もし親父が近い存在だったら泣いたと思うけど…例えば、一緒に楽しいことをしたりとかさ。でも、俺は釣りの仕方すら知らないんだ」

シャイロンも、父親の姿を知らずに育ちます。彼にとっては初めてのファーザー・フィギュア(父親の代わりとなるような年長の人)がフアンだったのだと思います。フアンに泳ぎ方を教えて貰ったシャイロンですが、コダックも先輩たちとツルみはじめてラップすることを覚えたと語っていました。彼にとって新しい世界に通じる「スキル」が、まさにラップなのだろうと思います。今後、コダックは一緒に釣りが出来るようなファーザー・フィギュアを見つけることが出来るのでしょうか。そもそも、コダック自身そろそろ父親になるそうで、ひょっとしたら自分の子供に釣りを教える方が先かもしれません。

ちなみに『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督はサウスのヒップホップ、そしてなかでもチョップド&スクリュー系のモノが大好きだったそうで、映画の中でもグッディ・モブ"Cell Therapy"や、何よりチョップド&スクリュードされたジデーナ"Classic Man"が印象的に使われています監督&音楽ネタで面白かったインタヴュー記事はPitchforkのコチラ。

そして、翻訳家の押野素子さんに教えていただいた『ムーンライト』の音楽を担当したニコラス・ブリテルのインタヴュー・ポッドキャストも、とっても面白かった!どのようにしてあの印象的なメロディが創られていったか、そして、主となるメロディのキーを変えるなど、どのようにして三つのチャプターに併せて楽曲の印象を変えていったかなどをブレイクダウンしており、とても興味深いです。もちろんチョップド&スクリュードについても!

Nicholas Britell - Moonlight — Song Exploder — Overcast

最後にこんなことを書くのもアレですが、『ムーンライト』の字幕で<ジョージアアトランタ州の>と表記されていた箇所がありましたよね。正しくは<ジョージア州アトランタ>なんだけど、ここはあえてアトランタ州の、という表記にしたのかな?んん?アトランタ好きとしてはやはり引っかかってしまいましたね…。

では、また〜。

 

シカゴ出身の女性MC、ノーネームに思うこと。

2016年は、初めての女性東京都知事が誕生したり、ヒラリー・クリントンも米大統領候補として健闘したり、ビヨンセとソランジュ姉妹の主張溢れるアルバム2作が全米首位を獲得したりと、やはり女性の活躍が目立った一年だったのではないでしょうか。VH1のHIPHOP HONORSも女性MCを讃えるモノだったしね。

その中で、とりわけ印象的だった女性アーティストの作品を紹介したく思います。

彼女の名はシカゴ出身のノーネーム(Noname)。同郷であるチャンス・ザ・ラッパー周辺で活動していた彼女ですが(雑な説明ですみません!)、2016年、サウンドクラウド上でEP『Telefone』を発表しました。

柔軟なフロウと歌声のナチュラルなコントラストがとても耳障りがよくて、特にコーラスワークには、繊細でオーガニックな美しさが滲み出ているよう。とはいえ、個人的に彼女の魅力の真髄はそれ以外の点にあると思っています。それは、女性(もっと言うなら、アメリカに生きる黒人女性)ならではの視点からラップしているのがとてつもなくユニークで素晴らしい点。彼女は昔から詩を書いていたそうで、歌詞は「リリック」というよりも「現代詩」と言った趣。思いがけない単語を組み合わせてドキっとする描写をするんです。あと「リリックの意味がよく分からない」と言われることも多いみたいで、ノーネーム自身、インタヴューでは「私の詩は好きに解釈してくれて構わない」と答えています。『Telefone』の中でも評価が高いのが「Casket Pretty」という曲で、「casket」は「棺」という意味。この場合、若者たち、幼い子どもたちが棺の中に入らねばならない=命を落とす、という事実が語られているんですね。

Roses in the road, teddy bear outside

Bullet there on the right

Where's love when you need it

(路上の薔薇、外に置かれたテディベア

あそこの弾丸 

必要なとき、愛はどこにあるの)

(この歌詞の前には、男性が警察に殺される描写が)

薔薇の花は追悼のためのもの。テディベアも同じく、ですよね。しかもテディベアのぬいぐるみを供えるくらいだったから、もしかして命を落としたのはまだ小さい男の子だったのかな。それとも、大人の男性が撃たれて彼の子どもや親戚の子がせめてもの思いで供えたテディベアだったのかもしれない…と、この数行でいろんな光景を想像してすごく切ない気持ちになってしまいます。そして、私が涙を流さずにいられないのが「Bye Bye Baby」という曲。この曲、ノーネームはFADERのインタヴューでこんな説明をしています。

「堕胎を経験した子たちのために、ラヴソングを作りたくて書いた曲。人々が堕胎について話すときって、大抵、そこに愛情はないって感じで話すじゃない。(堕胎に関しては)憎しみや鬱って感情しか見当たらない。私は、堕胎を経験した女性を知ってるわ。でも、そんな女性たちに向けた歌って存在しないのよ。もしくは堕胎を経験した瞬間のカタルシスを表した曲や、そんな女の子達を音楽で癒す音している曲が。この曲は、私にとっても、いち女性としてとても重要な曲。あと、そうした女性を気にかけているリスナーにとっても重要な曲だと思うわ」(著者抄訳)

少し話が逸れますが、2016年に公開された映画に「Barbershop3 :The Next Cut」というブラック・ムーヴィーがあります。アイス・キューブ主演の人気シリーズだから、知ってる方も多いのではないかしら。

この物語、シカゴの中でも犯罪都市として悪名高いサウスサイドと呼ばれるエリアを舞台にしているんです。で、シリーズ三作目となる本作でも、キューブ演じるカルヴィンの息子がギャングのメンバーに加入するのでは?という懸念から端を発して、広がる少年犯罪をどうやって防ぐべきか?ローカル・コミュニティとして何か出来ることは?と奮闘・葛藤する様子がストーリーの軸として描かれます。つい先日、カニエ・ウエストとドナルド・トランプが面会したことが話題になりましたが、カニエ自身、ツイッターで「シカゴの現状をどうにかして欲しくてトランプに会った」と呟いていましたよね。

例えば、チーフ・キーフやリル・ダークといった、現代のシカゴ・サウスサイドをレペゼンする若手MCたちは、ローカルのギャング団に入っていることを誇りにし、そのハードな暮らしをラッパーとしてのアイデンティティにしているわけです。言ってみれば、彼らがラップする過激な歌詞というものは(誇張はあるのかもしれないけど)実際にシカゴが直面している社会問題と直結するもの。しかし、私たちはそれをエンターテイメントのコンテンツとして享受している…と、「Barbershop3」を観ながらそうしたアンビバレントな事実を改めて考えてしまいました(この問題については、常にしばしば考えてしまいます)。ただ、このあたりのことはシカゴきってのリリシストかつ活動家であるコモンがアルバム『Nobody's Smiling』でしっかりと問題提議しています。

ちなみに最近、CNNが報じたニュースによると、シカゴの犯罪発生件数は過去19年で最大となったそうで、そのうち、銃撃事件が1年間で3,550件だとか…1日に約10件のペースです…。

そんなことを思いながらノーネームの作品を聴くと、終わりのない問題がぐるぐると頭をよぎってしまいます。柔らかい語り口の奥に、彼女が育ったバックグラウンドや、ここ東京では計り知れないほどのタフな状況があるのかと…。先ほどの「Bye Bye Baby」一つとっても、東京とシカゴの堕胎率、そして堕胎に至る経緯に関しては大きな違いがあるのかもしれないですよね。

シカゴ出身の女性MCといえば、バディ・ガイの娘でもあるショウナがいましたけど、このノーネームがこの先どんなストーリーを語ってくれるのか非常に楽しみでもあります。そして、チャンス・ザ・ラッパーや彼女のような新しいアーティストのパワーによって、地域のコミュニティが若者によってより健全な場所となりますように、とも願わずにいられません。

ノーネームのEP『Telefone』の全曲分のリリック&解説はこちら。

 それでは〜。

 

<作品メモ>THE ART OF ORGANIZED NOIZE(アート・オブ・オーガナイズド・ノイズ)

以下、Netflixで鑑賞したドキュメンタリー映画「THE ART OF ORGANIZED NOIZE(アート・オブ・オーガナイズド・ノイズ)」の感想文です。

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<ヒップホップの創世記>というと、当たり前のように70年代後半のニューヨーク、サウス・ブロンクスがフォーカスされ、ついで80年代後半の西海岸へとスポットライトが当たる。そして、90年代の黄金期サウンドとしてDJプレミアピート・ロックといったイーストコーストを中心に活動した名プロデューサーの名前がクローズアップされ、そのあとに続くのはパフ・ダディが築いたバッドボーイ帝国や、Dr.ドレーのアフターマス王国あたりと言ったところでしょうか。私も90年代後半ごろからUSのヒップホップ・サウンドを追い始めて、最初は先輩に「DJプレミアからディグれよ」みたいなことを言われたのだけど、正直、当時は一つのループで作り出されるトラックがとても単調に聴こえてしまって、はっきりとフックのコーラスがフィーチャーされているGファンク系のサウンドや、バウンシーな南部のサウンドの方がとっつきやすかったの。ナズの『Illmatic』を聴いても「あれ?今の曲、フックはどこだったの…?まさか、あのサンプリングの部分がフック…!?」みたいな。

というわけで、80年代後期〜90年代の米ヒップホップ史においてはニューヨークとロサンゼルス以外の地域はほぼシカトされることが多い。たまにマイアミの2ライヴ・クルーやヒューストンのスカーフェイス、UGK、そしてアトランタアウトキャストらの名が挙がるくらいでしょうか。話が前後してアレだけど、私は中学二年生くらいの時期にグッディー・モブ「Cell Therapy」を聴いて、その泥臭いトラックとラップの虜になってしまった。

その頃、モニカやアッシャー、TLCといった大好きなR&Bアーティストがこぞってアトランタ出身だということに気がつき、グッディー・モブもまたアトランタ出身だということに気がついた私はめちゃくちゃ興奮したのを覚えています。極め付けは1999年に安室奈美恵さんが発表したシングル「Something ‘Bout The Kiss」で、その曲のプロモーションには必ず「ダラス・オースティンのプロデュースによる」という文句がついて回っていた。

で、当時たまたまチェックしていたTLCのアルバム・クレジットにもダラスの名前を見つけて一人でニヤニヤしていた気がします(ちなみに中学生の私はアルバム・クレジットの欄を歌詞だと勘違いして熱心に読み込んでいた。そのおかげで、早いうちからプロデューサーやサンプリングのネタ元などを知ることができたと思う)。てゆうか、この曲ってデモテープで仮歌を入れていたのがモニカだって話をTVかどこかで聴いた気がします。

そんなこんなで、私が15年以上ファンを続けていたアトランタ・シーンのサウンドを作り出す名プロデューサー・チーム、オーガナイズド・ノイズ(ON)の裏側を余すところなく伝えてくれる本ドキュメンタリー作品はとにかくツボな部分だらけで、2016年10月のNetflix公開からかれこれ3度は観た。知らない貴兄のために記しておくと、ONはリコ・ウェイド、レイ・マーレイ、そしてスリーピー・ブラウン(めっちゃ伊達男♡)からなるプロデューサー・チーム。詳しくは『The Art Of Organized Noize』本編をご覧頂きたいのだけど、アウトキャストのプロデュースや、TLC「Waterfalls」、アン・ヴォーグ「Don’t Let Go(Love)”などを手がけたチームです。

元祖ダーティー・サウス!!

本編では彼らの成功、そしてアウトキャストやグッディー・モブ、ダンジョン・ファミリーらチームとの別離を生々しく伝えていて、今になってやーっと「ああ、あの時はそんな心境だったんだ」と知ることも多かった。あの頃は、いちいちSNSでその時の感情をスプレッドしていた時代じゃないからね。ペブルスがLA・リードへとONのことを紹介して見事La Faceとの契約に至った経緯や、そのあと、LaFaceのクリスマス・コンピ用にアウトキャスト「Player’s Ball」を作ったエピソード、そのMVの中で、「アトランタらしさ」を出すためにわざわざアトランタ・ブレイヴスのユニフォーム・シャツに着替えたこと、そしてヒットのあとに薬物中毒に陥ってしまったことなど、本人たちはもちろん、周りにいた当事者たちの意見も交えながら見事にドキュメンタリー映画として構築していて素晴らしかった。ちなみにメガホンを取っているのはQDIIIこと、クインシー・ジョーンズ・三世。あのクインシー・ジョーンズの息子さんだそう!なんでこのフィルムを撮ることになったんだろう。初出はSXSWだそうです。QDIIIさん、どうもありがとう。

ほんでもって、本作にはグッディー・モブのメンバーであるビッグ・ギップの元奥さんであり、一時期あのルーシー・パールのヴォーカルを務め、2015年のディアンジェロの来日時にはバック・ヴォーカルとして参加していたジョイ・ギリアムや、アウトキャストのデビュー時にバックアップしていたパフ・ダディのほか、リコ・ウェイドの従兄弟でもあるフューチャー、そして現代のアトランタ・サウンドを牽引するスター・プロデューサー、メトロ・ブーミンらの発言映像も盛り込まれています。メトロ・ブーミンなんて日本のメディアで紹介されること、非常に少ないっつうかほぼゼロだと思うから、これはとっても貴重な映像だと思う。

どこかの原稿でも書いたけど、今や、マイリー・サイラスジャスティン・ビーバーらポップ・シンガーまでもがこぞってサウスのヒップホップ・ヴァイブスを取り入れているし、プロデューサーのマイク・ウィル・メイド・イットはアトランタ産のトラップ・サウンドを明らかにポップ・ミュージックへと昇華したよね。チャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』が前作『Acid Rap』よりも高い評価と人気を得たのも、ゴスペル要素やSOXの面々による素晴らしいサウンド構築に加え、フューチャーや2チェインズ、ヤング・サグやリル・ヨッティーといった、旬&ある意味ポップなアトランタのMCたちを多く起用したからだと思う(言い過ぎ?)。

そんなこんなで、アトランタのヒップホップ・シーンの礎を築いたONの存在がなければ、2016年のビヨンセもカニエ・ウエストも、リアーナも、チャンス・ザ・ラッパーも存在しえなかったのではないかしら(言い過ぎ?すみません)。2016年は日本でもやたらと↑のようなアーティストにもスポットライトが当たった年だったと思うけど、去年、初めてチャンスやビヨンセの作品に触れたという方にも、このドキュメンタリー作品を観ていただければな〜と思います。今や、こんなにもパワーを持ったアトランタ産のサウンドがどのように創られていったのか(そしてそこにはどんな犠牲と葛藤があったのか)知ることが出来ますので。

ちなみにCOMPLEX誌がONのベストワークス25をまとめておりますのでご参考までにどうぞ!

The 25 Greatest Organized Noize Songs Of All Time | Complex

というわけで、2017年もホットなアトランタ・サウンドとの出会いを楽しみにすべくキーボードを閉じたく思います。

またね〜。

#BlackRiverMobb 2016 BEST75

さて、そろそろ2016年も終わりということで、私とスタイリストの黒川慎太郎の二人で組んでいる詳細不明なユニット、#BlackRiverMobb で2016年のベスト・ソング計75曲を選んでみました!#BlackRiverMobb としては、今年、イベント「#BANGBANG」を二回も開催することができ本当に充実した一年となりました。ご協力ならびにご来場くださった皆様には、心より御礼申し上げたく思います。

選出した75曲はApple Musicのプレイリストにまとめています。Aple Music内に見つからなかったものはYoutube のリンクを貼っておりますので、併せてご覧ください。基本的にハードでアホっぽい曲が多く、黒川がDJでよく掛けた曲や、私が「INSIDE OUT」で紹介した曲、我が家でよく掛っていた曲を集めました(でもって、正確には76曲あります…)。曲順に意味はないので、シャッフルで聴くのが面白いかもです。

 Gang Signs – Sad Boy

Kickin Flavor - Yung Bleu

Formation – Beyonce

あと、本ブログの最下部に、一曲ずつ雑な一言コメントを書いておりますのでおヒマな方はそちらも…。

他、私が個人的に選んだヒップホップ・アルバム10選は、Real Soundさんの記事にして頂いております。

そして、block.fm「INSIDE OUT」内で発表した「INSIDE OUT AWARDS 2016」は、書き起し名人のみやーんさんがご自身のブログにアップして下さっています。

miyearnzzlabo.com

じゃあ、またね〜。

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1. Father Stretch My Hands, Pt. 1 - Kanye West

「シカゴの思い出。出だしのヤング・メトロ・シャウトのところですでに優勝」

2. Work (feat. Drake) - Rhihanna

「実らぬ恋よ…」

3. One Dance (feat. Wizkid & Kyla) - Drake

SNLでのパフォーマンスも最高でした!」

 4. No Problem (feat. Lil Wayne & 2 Chainz) - Chance The Rapper

「おチャン、快進撃!」

 5. Gotta Lotta (feat. Lil Wayne) - 2Chainz

「2016年にスキャットマン・ジョンを蘇らせるとは…。ピーパッポ」

 6. MFN Right - 2Chainz

「マザファキンライトッッッ!!!」

 7. Low Life (feat. The Weeknd) - Future

「ダウナーなウィーケンドの方が好き。ポップスターなウィーケンドはワック」

 8. Wicked – Future

アトランタの思い出」

9. Young Fly N***a (YFN) - YFN Lucci

アトランタの思い出 pt.II」

10.  Push It - O.T. Genasis

「六本木の思い出」

11.  Get Paid  - Young Dolph

「メンフィスの若殿っぷりを見せつけた!」

 12. 2 Phones - Kevin Gates

「アルバムも最高でした!」

 13. I Got the Keys (feat. JAY Z & Future) - DJ Khaled

「コミュ力の高さ。MV良し」

14.  All the Way Up (feat. French Montana & Infared) [Remix] - Fat Joe, Remy Ma and Jay Z

「鮮やかな復活劇。ジェイの、奥さんベタ褒めヴァースも良し」

15.  X (feat. Future) - 21 Savage & Metro Boomin

「ボソボソラップ最高峰」

16.  Said n Done (feat. A$AP Rocky) - French Montana

「ネタ使いもイイね!オーマイガ!」

 17. Skrt - Kodak Black

「スカスカ〜ッ」

18.  Money Longer - Lil Uzi Vert

「名フック!」

19.  Strive (feat. Missy Elliott) - A$AP Ferg

「90年代のハウスっぽい、踊れるファーグ」

20.  THat Part (Black Hippy Remix) - ScHoolboy Q

「オケオケオケオケオケ、オケッッッ!!!」

21. Minnesota (feat. Quavo, Skippa da Flippa & Young Thug) - Lil Yachty

「DJミネソタくん from KANDYTOWN を思い出す」

22. Say Sum - MIGOS

「メロウなミゴスも白眉」

23. Pick up the Phone (feat. Quavo) - Young Thug & Travis Scott

「相性が悪いわけがない!」

24. With Them - Young Thug

「フロウ七変化」

25. Problem  - Young Thug

「フロウ七変化 pt.II」

26. Black Beatles (feat. Gucci Mane) - Rae Sremmurd

「マネキン…」

 27. Guwop Home (feat. Young Thug) - Gucci Mane

「おかえりグワップ!祝出所!」

28. St. Brick Intro - Gucci Mane

「MV最高。メリクリ〜!プレゼントはAK銃です」

29.  Icy Lil Bitch - Gucci Mane

「原点回帰」

30.  Bling Blaww Burr (feat. Young Dolph) - Gucci Mane

「シンプル・イズ・ザ・ベスト」

31. Money Machine (feat. Rick Ross) - Gucci Mane

「今期最も景気良さげな一曲」

32.  Ooouuu - Young M.a.

「ステファニー、フェラファニー」

33. Froze (feat. Lil Uzi Vert & Nicki Minaj) - Meek Mill

「彼氏に捧げるニキの本気ヴァースがいい」

34. Buddha (feat. Boyz II Men & Adrian Truth) - Tech N9ne

「B2Mの無駄遣い」

 35. Campaign (feat. Future) - Ty Dolla $ign

「今年も大活躍のタイダラ!」

36.  $ - Ty Dolla $ign

「来年も期待大のタイダラ!」

37. War Ready - Vince Staples

グライムダンスホールっぽい組み合わせが超ツボ」

38. My Carz - Snoop Dogg

「スヌープおいたん、まだまだ現役です!」

39. Double Tap (feat. E-40 & Jazze Pha) - Snoop Dogg

「ジャジー・フェイ、歌いまくりでイイ!」

40. Talk Show - TWENTY88

「恋愛相談トークショウを模したデュエットというアイデアも秀逸」

 41. Dirty Water - Marc E. Bassy

「マイク・ポズナーに通じるものがある新人シンガー」

42.  Tiimmy Turner – Desiigner

「一年間、大活躍お疲れさまでした!」

43. Redbone - Childish Gambino

「ファット・ジョーと同じあのネタ」

44.  Losing Your Mind - Raury & Jaden Smith

「二人のキャッキャ感が出ていた良かった。ドラマも」

45.  Luv – Tory Lanes

「定番ネタをこんな風にカヴァーしちゃうなんて」

46.  Surfin' (feat. Pharrell Williams) - Kid Cudi

「カディさん、お帰りなさい!」

47.  Drug Dealers Anonymous (feat. JAY Z) - Pusha T

マツダカープが登場するH-TOWNアンセム。神ってる〜」

48.  Not Nice  - PARTYNEXTDOOR

「“One Dance”やないかーい!」

49. Panda - Disiigner

「ヒップホップ史のワンヒットワンダー伝説を塗り替えた」

50.  Money (feat. Pell)   - Leaf

「NYの下町マグネット・ビッチとニューオーリンズのMC、ペル」

51. All Eyez (feat. Jeremih) - The Game

「しっとりゲーム」

52. Mad (feat. Lil Wayne) - Solange

「姉妹力」

53. Devastated - Joey Bada$$

「エモい」

54. Han Solo on 4's - Paul Wall

「ヒューストン、まだまだ行くで!」

55. Get Rich - Slim Thug

「ヒューストン、まだまだ行くで!」

56. MY PYT  - Wale

「爽やかワーレイ」

57. Ult - Denzel Curry

「いつもながらにハードモード!」

58. CRZY – Kehlani

「自殺騒動を経てバッサリベリーショートになったケラーニ嬢。アルバム楽しみ」

59. Consuela (feat. Young Thug & Zack) - Belly

「ラテン調のヴァイブスが堪んない」

60. My Favorite Part (feat. Ariana Grande) - Mac Miller

「真剣に愛を歌うマック坊…イイ!公私混同MVオブ・ジ・イヤー」

61. Remix'n a Bricc (feat. Fetty Wap, Young Thug & Starrah) - Bricc Baby

「アホっぽさが◯」

62. Magic City Monday (feat. Future & 2 Chainz) – Jeezy

アトランタ万歳〜!Magic City行ってみたい〜!」

63. Mudd (feat. Yung Bleu) - Boosie Badazz

「師弟コンビ、イイですね!」

64. F Cancer (Boosie) [feat. Quavo] 0 Young Thug

「癌を克服したブーシー、本当におめでとうございます」

65. Memoirs of a Gorilla - $uicideBoy$

「うるささ」

66. Thug (feat. YG)  - AD & Sorry Jaynari

「うるささ pt.II」

67. Juice (feat. Ty Dolla $ign, The Game, O.T. Genasis, Iamsu! & K CAMP) [Remix] - AD & Sorry Jaynari

「西のヤンキー勢ぞろい!!」

68. Go Flex - Post Malone

「ゆるふわギャング的ヴァイブス」

69. Yamborghini High (feat. Juicy J) - A$AP Mob

「待ってました!」

70. Down In the DM - Yo Gotti

「ヒット御礼。SNS+スケベ心」

 71. Playa No More (feat. A Boogie With Da Hoodie & Quavo) - PnB Rock

「元ネタがほぼ同名のアレ」

 72. For Free (feat. Drake) - DJ Khaled

オールドスクールなヴァイブスもあって良い」

 73. Mr. Tokyo – MadeinTYO

「来年も来日(つか帰国?)してくれるかな?」

 74. Gang Signs – Sad Boy

「ガチギャング」

75. Kickin Flavor - Yung Bleu

アラバマの新鋭!めちゃ注目株」

76. Formation – Beyonce

「女王???」

フレンチ・モンタナ『MC4』ライナーノーツ原稿公開

こんばんわ。

11月にリリースされたフレンチ・モンタナの『MC4』、もう聴いた〜?これ、普通にリリースする正規のアルバム作品としてほぼ全て完成していたんだけど、楽曲のサプリングのクリアランス問題で発売がずっと先延ばしになっていたの。そして、そうこうしている間に全曲がネットにリークしてしまい、結局『MC4』はフリーDLのミックステープとして発表されることになってしまったのでした。

 しかもしかも、日本のソニーさんも『MC4』の国内盤を出す予定でして、にゃんとと私がライナーノーツ&全曲分の対訳を担当させてもらう話になっていたんですね。しかし、「一式納品した!」と言うタイミングで、アルバム発売中止が決まったのでした…。というわけで、お蔵入りしてしまった原稿をこのブログに掲載したいと思います(レーベルご担当者さまの許可は頂いております)。ちなみにレーベルの方は私が「Ocho Chinco」の解説をしているのをきっかけに、今回のお話を依頼してくださったそう。えげつない下ネタでも何でも、喋っておくものですね。

では、お読みください。

(以下、ライナーノーツ原稿)

 今年の7月、ニューヨークの老舗ヒップホップ・ラジオ局、HOT 97が日本で主催するヒップホップ・フェス「SUMMUERJAM TOKYO」に出演するために初来日を果たしたフレンチ・モンタナ。くだんのフェスでは大トリを飾り、ヒット・シングルをこれでもかとパフォーム。2016年のヒップホップ・シーンを牽引するスターMCとしてのカリスマ性を遺憾なく発揮し、数千人のオーディエンスを魅了した。少年時代に故郷のモロッコからブロンクスに移住し、ひたすらヒップホップ・スターを目指してマイク稼業を続けてきたフレンチだが、ストリートでDVDを売りながら2007年にミックステープ『French Revolution Vol. 1』でデビューした当時、ここまでの成功を誰が予想していただろうか。

 まず、本作『MC4』に至るまでの彼の動きをレヴューしていこう。ミックステープを中心にラッパーとして活動しながら、2011年にパフ・ダディ率いるBad Boy Recordsと契約し、2013年にはデビュー・アルバム『Excuse My French』をリリース。ジャリル・ビーツやヤング・チョップ、そして中堅ドコロのリコ・ラヴらを製作陣に招き、まさに旬なクラブ・バンガーを詰め込んだ傑作となった。何よりも驚くのが、その豪華なゲスト陣。1991年にルークが放ったヒップホップのクラシック・パーティー・チューン”I Wanna Rock”をサンプリングした”Pop That”はドレイク、リック・ロス、リル・ウェインを、レゲエの定番曲、チャカ・デマス&プライヤーズの”Murder She Wrote”を大胆に引用した”Freaks”ではニッキー・ミナージュを、そしてNFLの同名選手をモジった”Ocho Cinco”のリミックスにはレーベルのドン、パフ・ダディにマシンガン・ケリー、ロス、レッド・カフェらを招き、フレンチのデビューを祝うかのごとく、ヒップホップ・シーンじゅうからホットなMCらが集まった。ファースト・アルバム発表後、2014年にはすでに本作『MC4』のリリースを示唆していたのだが、その製作意欲はアルバムのみにとどまらず、アルバム『MC4』をリリースするまでにクルー名義での『Coke Boys 4』、プロデューサー、ハリー・フラウドとのタッグで発表した『Mac & Cheese 4: The Appetizer』、豪華ゲストが集結した『Casino Life 2』、フェッティ・ワップとのコラボ作となる『Coke Zoo』、そして、マックス・Bとのコラボ・ミクステ『Wave Gods』 と、実に5作ものミックステープを発表しており、ファンを飽きさせることなく驚異の多作っぷりを証明して見せたのだった。

 また、ここ数年、フレンチといえばその派手な交友関係もしばしば話題に上るほど、セレブ然とした生活を送っていることでも知られる。2012年に前妻のディーン・カーボウチと別れた後(ちなみにフレンチにはディーンとの間に長男・クルーズがいる)、マイアミのヴェテラン・ラッパーであるトリーナや、モデルのソフィア・ボディとも恋仲を噂され、そしてその後、キム・カーダシアンの実妹であるクロエ・カーダシアンとの交際をスタートさせた(2014年に破局済み)。カーダシアン家といえば、リアリティ番組を通じて世界中に仰天のセレブ生活を発信している有名人一家である。というわけで、クロエとの交際期間中には彼女たちのリアリティ番組にも度々フレンチの姿が放送され、ヒップホップ以外のシーンでもお茶の間にその名を轟かせた。なお、キム・カーダシアンの配偶者はあのカニエ・ウエストであり、クロエとの交際期間において、フレンチはさらにカニエとの絆を強固なものにしたのではないかと邪推する。ただ、こうした幅広い交友関係がそのまま彼のキャリアにも繋がっており、ジェニファー・ロペスとの"I Luh Ya Papi"や、マイリー・サイラスやウィズ・カリーファと共に参加したウィル・アイ・アムの"Feelin' Myself"、クリス・ブラウンの”Loyal”、そしてあのジェイ・Zと共演したDJキャレドのシングル”They Don’t Love You No More”など、フィーチャリング・アーティストとしても引っ張りだこに。なお、つい最近では”Fancy”のヒットでもおなじみ、オーストラリア出身の白人女性ラッパーであるイギー・アゼリアとの交際が噂されたり、ロサンジェルスの超高級住宅地であるカラバサス内にある豪邸を、セレーナ・ゴメスから330万ドルで買い取ったというニュースが報じられたりと【註1】、ゴシップには困らない様子。こうした彼の派手な動きを見るにつけ、所属レーベルのオーナー、パフ・ダディの華麗で豪奢な姿とかぶってしまうのは筆者だけだろうか。

 もちろん、こうした華やかな生活だけがフレンチの全てではない。順風満々なキャリアを歩んでいたフレンチに悲劇が起こった。2015年5月17日、フレンチ・モンタナのクルー、Coke Boysの主要メンバーであり、キャリア初期から常にフレンチと共に活動してきたラッパー、チンクス・ドラッグズことチンクスが車中で何者かに撃たれ、享年31歳でその生涯を終えることとなったのだ。常にチームをレプリゼントしてきたチンクス。彼のヒット曲、その名も”Coke Boys”は、フレンチとともにクルー愛を歌い、スマッシュ・ヒットとなった楽曲でもある。チンクスの逝去後間もなく、フレンチはインスタグラムに「自分の兄弟分がこんな風に去ってしまうのは辛い。彼は間違いなくリアルな奴だった。こんなのは間違ってるよ。ストリートは俺らに対して愛なんかない」とポスト。最愛の片腕を亡くした彼の失望感は計り知れない。

 そんな人生の紆余曲折を経て発表されたのが、待望のセカンド・アルバム『MC4』だ。ちなみにこのタイトル、彼がインディ時代から発表し続けていた自身のミックステープ『Mac&Cheese』シリーズに由来するもの。フレンチといえば、とにかくキャッチーなヒット・シングルが要であることは周知の通り。本作からはまず、カニエ・ウエストとナズを迎えたM-1”Figure It Out”がリード・シングルとして発表された。本楽曲、もともとは先述したミックステープ『Wave Gods』に収録された楽曲であり、非情な現実世界を憂うブルージーなチューンである。なお、カニエとナズが同一の曲に参加するのは、この『Figure It Out』が初めてとのこと。印象的なサンプリング・ソースは、カナダ・トロント出身のバンド、ウィー・アー・ザ・テイクの” Montreal Love Song”だ。そして、セカンド・シングルとしてリリースされたのはM-8”Lockjaw”。フィーチャリングで参加しているのは、まだ若干19歳の若手ラッパー、コダック・ブラック。このコダック、その若さゆえかヤンチャな行動が多く、2016年9月の現在も、複数の罪状により、まだ刑務所の中で判決待ちの状態【註2】。ただ、有名ヒップホップ雑誌のXXL誌が選ぶ期待のMC10名にも選出されており、業界内からの期待は非常に高い存在でもある。そして、これらシングル以外にも豪華なゲストの名が並ぶ。M-5”Evreytime”はアトランタからジーズィーを召喚し、スリリングなハスラー・ラップを聴かせ、M-6には同じニューヨークのシーンを背負うA$AP・ロッキーが参加。リリック内で繰り返される印象的な「Oh My God, Oh My God」のフレーズは、かのバスタ・ライムスがア・トライブ・コールド・クエストの名曲”Scenerio”内で発したもので、これは二人なりのニューヨーク・アンセムと言えるかも?ロッキーも、これまで以上に軽妙なライミングを楽しんでいるようで、二人の好相性差が伺える。他、M-11ではR&Bシンガーのミゲルを呼び込んでグッとセンシュアルな雰囲気を纏わせたかと思えば、M−13"Have Mercy"ではビーニー・シーゲル、ジェイダキッス、そしてスタイルズ・Pといった1990年代後半からニューヨーク・ヒップホップ・シーンを支え続けてきた先輩らを招き、 重厚感あふれるマイクリレーを実現させている。そして、本アルバムにおける最重要ゲストといえば、M-14. “Chinx & Max / Paid For”にフィーチャーされたチンクスとマックス・Bだろう。前述の通り、若くして銃弾に倒れてしまった盟友・チンクス。そして、マックス・Bはフレンチがまだ無名の頃からとも活動してきたハーレム出身のラッパーだ。もともと、キャムロンやジム・ジョーンズらディプロマッツのメンバーとも共に活動してきたマックス・Bだが、2009年に第一級殺人ならびにその他の余罪を問われ、75年という超長期刑を受けて現在も収監中だ【註3】。ただ、フレンチにとってはラッパーとして活動をスタートした頃から自分を支えてくれた大切な同胞である。本楽曲ではチンクスを失った悲しみとマックス・Bの非情な状況とを重ねあわせて人生の悲哀を語り、曲中には、獄中からの電話を通してレコーディングしたマックス・Bの肉声、そして彼の母親からのメッセージをフィーチャーしている。楽曲の後半ではマックス・Bとチンクスのヴァースを合わせて、もはや実現不可能になってしまった3MCのコラボを実現させることに成功。涙無くしては聴けない一曲に仕上がっている。

 そして、多くのヒット曲を連発しているフレンチらしく、本作品に参加しているプロデューサーもホットな面子が揃った。業界からも注目される新星、リル・ウージー・ヴァートの代表曲”Money Longer"でその名を挙げたマーリー・ロウ。ミーゴス”Pipe It Up”を始め、リル・ヨッティーからドレイクまでを手がけるカナダ出身のマーダー・ビーツに、これまでにエミネムやジェイ・Zらのビートを手がけてきたヴェテラン、DJキャリルや、サイプレス・ヒルモブ・ディープ、ファット・ジョーに50セントら、数々のヒップホップ・クラシックを生み出してきたジ・アルケミスト、そして、これまでにもフレンチと共に多くの代表曲を作り上げてきたハリー・フロウドやアール&Eも参加し、これまでのフレンチの世界観を踏襲しつつ、新たなサウンドのレイヤーを広げている。

 ミックステープでブレイクした後、常にヒット・シングルを世に送り続けているフレンチ・モンタナ。多くのドラマと共にこの『MC4』を引っさげ、今後もさらにスケールの大きいヒップホップ・ドリームを実現させてくれることは間違いなさそうだ。

 

 【註1】しかもこのエピソードはドレイクとの楽曲「No Shopping」内にてリリックとして盛り込んでいる。

【註2】2016年12月1日、保釈金を払って釈放されました!

【註3】フレンチ・モンタナらの尽力により、刑期がぐんと短縮する可能性が。うまくいけば6年以内に出所が可能らしいです。

 

<作品メモ>この世界の片隅に

全然ヒップホップとは関係ないのですが、映画「この世界の片隅に」を観に行ったので思わず感想をしたためようかと…。

 http://buzz-plus.com/wp-content/uploads/2016/08/non9.jpg

 

<以下、ネタバレがありますのでご注意を>

私の両親はともに広島県で生まれ育ち(父方に至っては江戸時代まで遡っても広島にずっと住んでいるほどの家系)、特に母方の祖父母は爆心地にも近い広島市出身でした。私も18歳までを広島市内で過ごしました。私の祖父は1945年8月6日、広島市に原爆が投下されたその日、学徒動員中だったそうで(比治山じゃったかね)、作業中に被爆して背中に大きな火傷を負い、以後、被爆者として生き抜いた人物です。祖父には被爆手帳も支給され、私は被爆3世ということになります。同時期、祖母は兄妹と一緒に県北へ疎開していたそう。ただ、二人とも戦争体験は私にも私の母にも、全く話そうとしなかったんですよね。祖父は被曝した上、親兄弟も原爆によって亡くしています。なので「この世界の〜」を鑑賞した際、当時の広島市内の様子がありありと再現されていて、スクリーンにアニメーションで描かれた風景の中に私の祖父母の「日常生活」も存在していたんだなあ、と思うとそれだけで泣けてきました。しかも、うちの祖母の家は、幼少期のすずが海苔を届けに行く中島本町の近辺で骨董品店だったかを営んでいたらしいんですよね。なので、余計に泣けてきた。

そして各所で語られていることですが、劇中ではこうした「広島」「呉」のディテールが本当によく描かれていて、特に広島市出身の私は(前述した理由もあって)一気に引き込まれてしまいました。ローカルなネタだと、すずがお嫁に行くために江波から呉まで列車で移動するんじゃけど、そこに「むかひなだ」の文字(⬅︎めっちゃ地元)、そして原爆直後の描写で「東雲から来た人はおらんか」のセリフ…。よくも東雲なんて地名を出してきたね、と思ったけど、ほんまにあの時、あの場所に東雲から呉まで歩いて逃げてきた人がおったんじゃろうね。辛い…。

方言ネタだと「たいぎい」「やねこい」(ともに面倒くさい、の意)、「つむ」(商店などが営業を止める、閉店する)などのドープな方言が出てきたのも嬉しかったし、リアリティがあった。小学校(当時は尋常学校か?)の男子は「カバチタレ!」って言ってましたね。

そして、戦争を生き延びてハッピーエンド!という終わり方だけではなく、その後、被爆者の方が背負っていくであろう苦しさの部分を匂わせる描写があったのもよかったです。すずが右手を失っているのはその最たる例だと思うのですが、わっ…と思ったのは、すずの妹のスミが被爆後に腕の痣を見せて「うち、生きられるんかねえ」と言っていたところ。もしかしたらスミちゃんはこの後、何十年も原爆症に苦しむ未来が待っているのかもしれん…と思ったらやけにツラい気持ちになりました(井伏鱒二「黒い雨」を思い出してしまいました)。だって、現にそんな広島市民はたくさんいるもの。あと、戦後の呉の闇市のシーン。ここから「仁義なき戦い」に繋がるんか…と、これまたハッとした。「この世界〜」も「仁義なき〜」も、私にとっては戦中・戦後の広島を知る大事な手がかりとなる映画じゃ。ほうじゃ、のんさんが喋る広島弁は、「仁義なき〜」で菅原文太が披露する広島弁と同じくらい違和感がなく、ずっしり心に響くもんじゃったわ。

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とにかく、個人的には祖父母が語らなかった「戦時中の広島の暮らし」を知ることができて本当に良かった。祖父はすでに帰らぬ人なので、余計に。

広島の被爆者は、のちにNYのハーレムでマルコム・Xとユリ・コウチヤマさんと会っているんですよね。人種差別と立ち向かう(というか対立していた)マルコムは被爆者として差別を受けた人々に対し、シンパシーを感じとったそうです。

 

では、また何かあれば書きます。

 

参照リンク:

www.nhk.or.jp